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キャリア迷子の現代人に贈る 「自立のススメ」

2019年02月18日 公開
2022年12月28日 更新

伊藤羊一(Yahoo!アカデミア学長)

連載 置かれた場所で「突き抜けろ!」

Yahoo!アカデミアの責任者である伊藤羊一氏が、「自身の力でキャリアをデザインする生き方」をアドバイスする本連載も今回で最終回。「目の前の仕事に120%打ちこむことで、次のキャリアを切り開け」というメッセージをベースに、最終回は「真の自立」の意味について解説していただいた。やりたいことも志もあやふやで、多様化する生き方・働き方に翻弄される多くの現代人が学ぶべき、「Lead the self」の考え方とは。

 

自分の生き方を他人に任せていないか

 皆が行くから仕方なく学校へ通う。皆がするから、自分も何となく就職活動をする。人気企業ランキングに影響を受けて就職先を決める。就職後は、自分の意思よりも会社の指示を優先して、組織の論理に自分を順応させていく。そのうちに、流されて生きることに対して、何の疑問も抱かなくなる。

 私は、40代前半まであらゆる出来事に対して受動的でした。

 でも、前回お話ししたように、震災をきっかけに「自分の信念に基づいて人生を選択する自由」に気づいて以来、自分の生き方に対して疑問を抱き始めました。「他人に言われるがまま、人生を決めていていいのか」とモヤモヤしだしたのです。

 自分の人生を他人に任せたくない。自分の人生は自分でリードしたい。自分でデザインしたい。震災を経て、精神的に自立したことで、思うままに生きる覚悟ができました。

 折しも、ソフトバンクアカデミアに入るタイミングだったのは幸運でした。ソフトバンクアカデミアを通じて、ヤフー前社長の宮坂学氏と出会ったのです。「孫社長に会ってみたい」という軽い気持ちで応募したプレゼン大会でしたが、Eコマースについてプレゼンしたところ、当時ショッピングの責任者を務めていた宮坂氏を紹介してもらい、初対面にもかかわらず意気投合しました。

 それから3年後、CEOになった宮坂氏から、次世代リーダーの育成機関であるYahoo!アカデミア学長就任の要請を受け、引き受けることにしたのです。

 ただ、本音を申せば、私は人を育てることなどできないと思っています。人が育つのは、あくまでも本人の意志だからです。でも、人が成長するきっかけを与えることならできます。私自身、仲間のおかげで大きく変わることができました。今度は自分ができる限り多くの人に、変わるきっかけを与えたい。そう考えて、Yahoo!アカデミアの学長を引き受けました。

 

自立した個人が強い組織を作る

 Yahoo!アカデミアでは、こんな悩みを抱える人が大勢います。このまま今の会社に居続けて大丈夫なのか、今の仕事を続けていていいのか──。危機感はあるけれど、何をすればいいのかわからず、モヤモヤしている。私は、思う存分モヤモヤすればいいと思います。それこそが、行動を起こすエネルギーになるからです。

 私は、こうした生徒たちに「Lead the self」、つまり「自立せよ」というメッセージを発信し続けています。何も、会社を辞めて独立すべきだと言っているわけではありません。自分で自分の人生をコントロールできるようになりましょう、ということです。

 そこで、Yahoo!アカデミアでは、二限目でご紹介した「ライフラインチャート」を描き起こし、自分の人生を振り返ります。このグラフを使い、過去の出来事に対して、「自分はそのときどう感じて、どう行動を起こしたのか」を、徹底的に深掘りしていくのです。自分に対する理解が深まり、大切にしている価値観、つまり信念がハッキリしてきます。それによって、自分が進むべき方向性が徐々に明らかになっていくのです。

 中には、自分の信念が明らかになることによって、「今いる職場との方向性の違い」に気づく人もいます。私は、自立した結果、今の職場を離れるのなら、それでもいいと考えています。

 自分の信念に従って、適切な場所や働き方を自分で選択することこそが自立だからです。

 もちろん、ヤフーの社員も例外ではありません。「自立しろ」と言いながら、「理由を問わずヤフーに残れ」というのは矛盾してしまいます。

 でも、自立した人々がヤフーに残ってくれたら、これほど頼もしい人材はありません。組織に依存した個人の集団より、自立した個人の集団のほうが、力強く生産性も高いからです。

 働き方が大きく見直されている今だからこそ、自分の人生をコントロールできる人材を増やすことは、社会や企業にとって大きな課題と言えるでしょう。

 

「利他的利己」でなければ、仕事も人間関係も続かない

 一方で、思うままに生きるようになることによって、気まぐれで自己中心的な人が出てくるのではないか、と不安を覚える方もいるでしょう。

 厳密には違います。ただ、誤解を恐れずに言えば、みんなもう少し利己的に生きるべきだと考えています。自分の幸せのために人生を送らなかったら、仕事も趣味も生活も続きません。自分がハッピーであることは大前提なのです。大企業で埋もれ、社会や組織のことばかり考えて自己犠牲を強いられている人ほど、この意識は大切でしょう。

 とはいえ、自分さえよければ他人に迷惑をかけても構わないのかといえば、それも違います。犯罪やハラスメントは論外として、キャリア構築のために会社を踏み台にする、自分の実績のために他人を利用するのは、自分勝手なだけです。会社に頼れない時代にそうした考えに至るのも無理はありませんが、他人がどうなろうが自分さえよければいい「利己的利己」ですと、いずれ必要とされなくなります。

「周囲に迷惑をかけなければ、問題ないのでは?」という考え方もあるでしょう。でも、社会とのつながりや共同体の一員である自覚のない人に、あなたは手を差し伸べようと思うでしょうか。

 昨今流行りの「人の目を気にせず、好きなことだけをやれ」というメッセージ自体は間違ってはいません。ただ、それだけでは足りないのです。自分の好きなことを通じて、社会に貢献できることを見つけたほうがいい。そのほうが、周囲の共感も得られ、仕事も続けやすくなります。

 私のイメージでは利己をベースに利他を追求していく感覚です。「利他的利己」ですね。周りから承認されたい、社会で成功したいと考えるのならば、自分の在り方の先に、社会の在り方を考える意識が欠かせません。

 

社会に貢献するのは遠い世界の人ではない

 大起業家でもない一介のサラリーマンが、社会の在り方を考えると言われてもピンとこないというのが正直な感想でしょう。かつての私も、意識の高い遠い世界の話だと感じていました。

 でも、ダメ社会人だった自分を救ってくれた仲間に恩返ししていくうちに、徐々に世の中に価値を提供していくことを、我がこととして捉えられるようになってきました。現在はその延長で、仕事を通じて社会をリードしていきたいと思えるようになってきたのです。

 そうすると、世の中に影響力を持つ人たちが、身近な存在になってきました。別次元のような偉い人でも、人から借りた言葉ではなく、自分自身の言葉でビジョンを語れば、案外話を聞いてくれることがわかったからです。拙つたない話し方であっても、「自分は世の中にこう貢献していきたい」というビジョンがあれば、雲の上の人も、同じ志を共有する対等な仲間なのです。とはいえ、孫社長に会ったときは、とても緊張したのですが(笑)。

 私はYahoo!アカデミアを通じて、人生を主体的に生きる人を増やし、将来的に彼らが仕事を通じて「Lead the society」を実現していってくれればいいと思っています。

 大それた志かもしれませんが、絵空事だとは思っていません。仕事恐怖症だった自分が、仕事の面白さに目覚め、流されて生きてきた自分が、人生を主体的に生きることを決めた。実体験から、「人は変われる」ということを強く感じているからです。

 こうした過去の事実を積み重ねて生まれた信念は、紛れもなく自分だけの真実です。真実をベースに話せば説得力は増します。だからこそ、誰が相手であっても、自信を持って未来を語ることができるのです。

 

振り返っても信念が見つからない人の働き方

 私の人生を振り返りながら、キャリアについて解説してきた講義もこれで最後です。そろそろまとめに入りたいと思います。

 「Lead the society」は最終的な目標として、まずは「Leadthe self」を目指しましょう。

 そのためには、ライフラインチャートで過去を振り返り、信念を見つけようというお話をしました。過去が現在を作り、現在が未来の自分を作り上げるのなら、信念こそが、進むべき未来を決める羅針盤に成り得るからです。

 しかし、過去を振り返った結果、積み上げてきた経験が、現在の自分を信念とは違う方向に進めていることに気づく方もいることでしょう。

 もし、そうなのだとしたら、この瞬間にやりたいこと・やれることを始めて、現在の経験を上書きすることをお勧めします。ボランティアに参加する、勉強会に参加する、サークル活動を始める。なんでもいいので行動することに尽きます。今、行動を変えることで、自ずと未来も変わっていきます。

 一方で、過去を振り返ってもまだ、信念もやりたいこともあやふやな方もいるでしょう。

 でも、それで大丈夫です。目の前にある仕事に徹底的にコミットし、「自分はそのときどう感じて、どう行動を起こしたのか」を自問自答し続ければ、進むべき方向性が自ずと見えてきます。その先に、やりたいことも明確になってくるでしょう。私自身、50歳で「学校を作りたい」という目標が見つかったのですから、焦る必要はありません。

 ですから、やりたいことが見つからなくても、自信を持って目の前の仕事に120%の力で打ち込めばいい。置かれた場所で突き抜けるくらい全力で働いて、経験値を溜めておけば、この先やりたいことが見つかったときに、きっと役立つはずです。

 この連載を読んで、皆さんが理想的な人生を描いていければ幸いです。

 

 

著者紹介

伊藤羊一(いとう・よういち)

ヤフー〔株〕 コーポレートエバンジェリストYahoo! アカデミア学長

〔株〕ウェイウェイ代表取締役。東京大学経済学部卒。グロービス・オリジナル・MBA プログラム(GDBA)修了。1990年に〔株〕日本興業銀行入行、2003年プラス〔株〕に転じ、201年より執行役員マーケティング本部長、2012年より同ヴァイスプレジデントとして事業全般を統括。
かつてソフトバンクアカデミア(孫正義氏の後継者を見出し、育てる学校)に所属。孫正義氏へプレゼンし続け、国内CEO コースで年間1位の成績を修めた経験を持つ。
2015年4月にヤフー〔株〕に転じ、次世代リーダー育成を行う。グロービス経営大学院客員教授としてリーダーシップ科目の教壇に立つほか、多くの大手企業やスタートアップ育成プログラムでメンター、アドバイザーを務める。
著書に、『1分で話せ』『0秒で動け』(ともにSB クリエイティブ)がある。

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