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「平成の敗北」から日本企業はどうすれば巻き返せるのか

2019年05月09日 公開
2023年10月24日 更新

遠藤功(ローランド・ベルガー日本法人会長),入山章栄(早稲田大学大学院教授)

「現場力」×「世界最先端の経営学」

不景気にあえぎ続けた平成が終わり、新たな時代が幕を開ける。令和以降、日本企業はグローバル競争を勝ち抜き、再び世界的地位を取り戻せるのか。グローバル化するビジネスシーンを、日本のビジネスパーソンは生き残ることができるのか。現場を知り尽くしたコンサルタントである遠藤功氏と、世界最先端の経営学を研究する入山章栄氏が、日本企業、そして日本人の勝算について徹底的に語り尽くす!

 

「敗北の時代」を経てリベンジマッチが始まる

 平成の30年間は日本企業にとってどんな時代だったのか。その総括から対談は始まった。

 遠藤 「平成の30年間は、日本企業にとって敗北の時代だった。それを認めて日本はもう一度勝機をつかまなければならない」。経済同友会代表幹事の小林喜光さんの言葉に、私も同感です。入山さんはいかがですか?

 入山 残念ながら、私も同意見です。日本企業にとって敗北の時代だったと捉えています。平成元年と現在の「世界企業の時価総額ランキング」を見れば、それが一目瞭然です。

 平成元年は上位30社のうち24~25社は日本企業でしたが、平成31年は上位30位に1社もありません。最上位のトヨタ自動車でも30位以下。惨敗です。

 遠藤 その原因とは?

 入山 グローバルイノベーションで負けたことだと思います。今はIT技術のおかげで、世界共通言語の英語でサービスを立ち上げれば、創業直後にグローバル展開できる。アメリカや中国のベンチャー企業は、最初から50億人のマーケットを相手に、一気にプラットフォームを広げる戦略を採用してきました。日本企業が得意とする競争の型とは違います。

 経営学では、競争の型は大きく分けて3つあるとされます。

 スケールメリットを活かしてマーケットの独占を図る「IO型」、複数の企業が切磋琢磨しながら差別化して勝ち残る「チェンバレン型」、イノベーションを起こして勝ち抜く「シュンペーター型」です。現場のオペレーションに強い日本企業が強さを発揮するのは「チェンバレン型」。

 それに対して、今のグローバル競争の主流は、「シュンペーター型」で新しいことをどんどん始めて、一気に独占を図る「IO型」で勝つモデルです。フェイスブックやウーバー、エアビーアンドビーは好例です。だから、一気に時価総額が伸びたわけですが、日本ではこういったベンチャー企業が出てきませんでした。

 遠藤 グローバルなプラットフォームを作る競争が続くと、日本企業に勝ち目はない。

 とはいえ、私は日本企業がすべて負けているとは思っていません。平成の時代でも、トヨタ自動車、ユニクロ、オリエンタルランドなどは上手くやってきた。その共通点は、複数の企業の力を結集した総合力です。

 例えば、トヨタは部品のサプライヤーや鉄鋼メーカー、ユニクロも東レなどの協力によって、世界に通用する付加価値を生み出してきました。このように企業の力を集結すれば、日本企業も出る幕があると思います。

 入山 私もそう思います。それに、日本は1回戦では負けたかもしれませんが、まもなく2回戦が始まります。それは何かといったら、「モノ」の戦いです。

 今後、IoTが進み、モノを通じて利用者情報を収集・活用する時代になると、それに対応する良質なハードが求められる。つまり、『モノづくりの復権』が期待できるのです。

 良質なモノづくりができる国といえば、ドイツと日本です。日本のモノづくり企業にとっては、最後にして最大のチャンスが巡ってきます。この戦いに負けたら終わりですが、勝てば日本は巻き返せるはずです。

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日本基準の人事制度が終わり、格差が広がる >

著者紹介

遠藤 功(えんどう・いさお)

遠藤功(ローランド・ベルガー日本法人会長)

ローランド・ベルガー日本法人会長。早稲田大学商学部卒業。米国ボストンカレッジ経営学修士(MBA)。三菱電機株式会社、米系戦略コンサルティング会社を経て、現職。経営コンサルタントとして、戦略策定のみならず実行支援を伴った「結果の出る」コンサルティングとして高い評価を得ている。ローランド・ベルガーワールドワイドのスーパーバイザリーボード(経営監査委員会)アジア初のメンバーに選出された。株式会社良品計画 社外取締役。ヤマハ発動機株式会社 社外監査役。損保ジャパン日本興亜ホールディングス株式会社 社外取締役。日新製鋼株式会社 社外取締役。コープさっぽろ有識者理事。『現場力を鍛える』『見える化』(以上、東洋経済新報社)、『新幹線お掃除の天使たち』(あさ出版)など、ベストセラー著書多数。

入山章栄(いりやま・あきえ)

早稲田大学大学院(ビジネススクール)教授

慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で自動車メーカー・国内外政府機関への調査・コンサルティングに従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より、米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。13年より現職。著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)など。

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