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1人の「妄想」から始まる「ビジョン思考」こそが、これから企業を勝たせる

2019年06月21日 公開
2023年03月02日 更新

佐宗邦威(BIOTOPE CEO)

共感が市場を生み、新しい商品を生む

 

「カイゼン」や「戦略思考」という言葉は、お馴染みになっている方が多いだろう。「デザイン思考」という思考法が注目されていることも、ご存じの方が多いことと思う。しかし、実際にデザイン思考を実践してきた佐宗邦威氏は、「ビジョン思考」ができる人がいなければ、デザイン思考はうまく機能しないと言う。ビジョン思考は、いったい、どういうものなのだろうか。

 

カイゼンと戦略で勝てる時代は終わる

 今は、企業のモデルが根本的に変わってきている時期です。

 20世紀型の企業は、市場が拡大していましたから、その「囲い込み」をすることが、勝ち続けるための方法でした。

 市場を囲い込むためには、同じ市場を狙っている競合と戦わなくてはなりません。選択と集中によって、競合に対する競争優位性を高めるために必要な思考法が、「戦略思考」です。

 また、競合と戦いながら利益を出し続けるためには、企業の内部のオペレーションを効率化することも大事です。そのための思考法が、「カイゼン思考」です。

 20世紀型の企業におけるミッション(経営理念)は、社員が一糸乱れず同じ方向を向くようにするために有効なものでした。

 ところが、インターネットの登場による情報革命で、状況が大きく変わりました。

 インターネット上の情報は世界中の誰にでも届きますから、ある市場に向けて発信したつもりの情報に、全然違うところにいる人が反応する、ということが起こるようになったのです。

 その結果、21世紀型の企業では、どこかにある市場を狙うよりも、企業が外部に、ミッションに根差したビジョンを発信することで、それに共感するユーザーを集める、つまり、市場の「呼び込み」をすることが、勝ち続けるために重要になりました。

 ここで言うビジョンとは、20世紀型の企業におけるビジョンとは違い、商品やサービスが持つ意義のことです。それに共感する人がユーザーになるだけでなく、社員にもなって、新たな商品やサービスを生み出していきます。

 私が消費財メーカーでマーケティングを担当していたとき、上司に、「この商品のビジョンがわからない」と相談をしたことがあります。それに対する答えは、「3年で○%売上げアップがビジョンだよ。明確じゃないか」というものでした。「それは目標であって、ビジョンじゃない!」と思ったのを覚えています。

 21世紀型の企業が行なう「ビジョンの発信」のための思考法を、私は「ビジョン思考」と呼んでいます。

 そして、呼び込んだ市場が求めるサービスや商品を、社内外の知を集めてどんどん新たに作り出し、広げていくことも、勝ち続けるために必要です。そのための思考法が、「デザイン思考」です。

 

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21世紀型企業ではビジョンの発信が不可欠に >

著者紹介

佐宗邦威(さそう・くにたけ)

〔株〕BIOTOPE代表取締役CEO/チーフ・ストラテジック・デザイナー

大学院大学至善館准教授。京都造形芸術大学創造学習センター客員教授。東京大学法学部卒業、イリノイ工科大学デザイン研究科(Master of Design Methods)修了。プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン〔株〕(P&Gジャパン)マーケティング部で『ファブリーズ』『レノア』などのヒット商品を担当後、『ジレット』のブランドマネージャーを務める。その後、ソニー〔株〕に入社。同クリエイティブセンターにて全社の新規事業創出プログラム立ち上げなどに携わる。ソニー退社後、戦略デザインプラットフォーム「BIOTOPE」を起業。著書に『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』(クロスメディア・パブリッシング)、『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』(ダイヤモンド社)がある。

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