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貿易問題よりも根深い 「米中冷戦」の本質

2019年06月19日 公開
2022年03月02日 更新

茂木誠(駿台予備学校世界史科講師)

米中摩擦に「叙任権闘争」あり

 そんなペンス氏が、演説において厳しく追及したのが、中国政府による宗教弾圧です。

 どの国でもカトリック司教の任命権はローマ法王(現在はフランシスコ法王)にあります。しかし、中国共産党はそれを認めず、無神論の共産党政権がカトリック司教を任命するという奇妙な現象が起こっています。

 共産党政権は、バチカンが任命したカトリック司教を、弾圧しています。見つかれば十字架も教会も破壊されてしまうので、秘密裏に集会を開いているのです(地下教会)。江戸時代の隠れキリシタンそのものでしょう。

 中国でのカトリック教会の分裂を憂いたローマ法王は、ついに中国政府公認の司教を追認する方向で合意しました。しかし、信仰の自由を重んじるペンス氏は、こうした中国政府の宗教介入を、強く批判しているのです。

 世俗権力と宗教的権威とが聖職者の任命権で争うことを、「叙任権闘争」と言います。

 中世ヨーロッパには、神聖ローマ皇帝ハインリヒ4世が、自分の言うことを聞く司教を勝手に任命しました。それに対してローマ法王グレゴリウス7世が異を唱え、ハインリヒ4世を破門。ハインリヒ4世は、グレゴリウス7世に許しを請いました。これが、「カノッサの屈辱」と呼ばれる事件です。

 米中摩擦には、現在の「叙任権闘争」が影を落としています。中国政府が米中対立を、単なる貿易問題だと捉えているのなら、米中 関係は悪化の一途を辿るでしょう。今後、アメリカに対してどんなアクションを起こすのか、中国の動向に注目です。

 

 

著者紹介

茂木誠(もぎ・まこと)

世界史講師

東京都出身。駿台予備学校、ネット配信のN予備校にて、東大・一橋大など国公立志望者向けの世界史講座を担当する。歴史上の人物が憑依したかのようなドラマチックな講義スタイルで、学生からの支持も厚い。各種受験参考書に加え、『ジオ・ヒストリア』(笠間書院)、『「日本人とは何か」がわかる日本思想史マトリックス』(PHP研究所)など著書多数。近年はYouTube「もぎせかチャンネル」にも注力する。

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