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「プリンスの暴走」に見る サウジアラビアの不都合な真実

2019年07月03日 公開
2023年09月27日 更新

茂木誠(駿台予備学校世界史科講師)

MBSを消して得をするのは誰か?

 この状況に危機感を覚え、サウジアラビアの改革を進めているのが、高齢のサルマン国王に代わりこの国を治めるムハンマド・ビン・サルマン王子(通称MBS)です。オイルマネーに胡坐をかいてきた王族たちを排除するなどの粛正を断行してきました。当然、MBSに不満を持つ王族も多くいます。

 サウード家の腐敗を暴いてきたトルコ系サウジアラビア人ジャーナリストであるジャマル・カショギ氏の殺害事件。同氏は結婚届を出しに行ったトルコのサウジアラビア領事館で消息を断ち、トルコ政府がサウジ当局による殺人だ、と発表したのです。サウジアラビアの国際的な立場は悪くなり、同国を擁護するトランプ大統領への反発も強まっています。

 誰が殺害を命じたのかは明らかになっていません。MBS黒幕説もありますが、なぜ証拠が残る領事館でわざわざ殺すのか、疑問が残ります。

 むしろ、MBSを陥れようとする勢力の陰謀である可能性が高いでしょう。カショギ氏殺害によって、サウジアラビアの深刻な内部対立が明らかになり、米国のサウジ離れも進みます。サウジアラビアの苦境を一番喜んでいるのは、イランでしょう。

著者紹介

茂木誠(もぎ・まこと)

世界史講師

東京都出身。駿台予備学校、ネット配信のN予備校にて、東大・一橋大など国公立志望者向けの世界史講座を担当する。歴史上の人物が憑依したかのようなドラマチックな講義スタイルで、学生からの支持も厚い。各種受験参考書に加え、『ジオ・ヒストリア』(笠間書院)、『「日本人とは何か」がわかる日本思想史マトリックス』(PHP研究所)など著書多数。近年はYouTube「もぎせかチャンネル」にも注力する。

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