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ロイヤルHD会長「東日本大震災の被災地での炊き出しが、社長のあり方を教えてくれた」

2019年07月24日 公開

菊地唯夫(ロイヤルホールディングス会長)

金融業界から外食業界へ転身し、6期連続増収増益を実現

 

『ロイヤルホスト』『天丼てんや』などの飲食店や『リッチモンドホテル』を展開し、また、機内食事業なども手がけているロイヤルホールディングス。2010年の社長就任以来、同社を率いている菊地唯夫氏は、6期連続増収増益を実現するなどの成果を上げてきた。元は金融マンだった菊地氏が、社長のあり方を学んだ転機とは?

 

 日債銀で頭取の秘書を務めていたときに破綻を経験したこと、ドイツ証券から別業界の当社に移ったこと、また、社長に就任したことなど、転機は数多くありましたが、中でも最も大きかったのは、社長になった翌年の東日本大震災です。

 発生の翌月、コックら従業員たちとともに、私は宮城県山元町の避難所に向かいました。そして、そこにいた約850人の方々に、1週間、ランチの炊き出しをしました。

 避難所では温かいものが食べられなかったので、厨房設備を持ち込んで、煮込みハンバーグやハヤシライス、中華丼などを、日替わりで提供しました。

 私の目には実にスムーズなオペレーションに見えたのですが、ホテルに戻ると、従業員たちは延々と反省会をしていました。「小さな子供を連れた人にはサポート役をつけよう」など、細かな改善点を話し合っていたのです。

 印象深いのは、「我々はボランティアをしているのではない。させていただいているのだ」というリーダー(現ロイヤルホスト社長の佐々木徳久氏)の言葉です。そこまで相手に寄り添う姿勢を持った従業員がいることを、私は誇りに思いました。

 同時に、反省もしました。私は金融業界にいたので、株主ばかりを見てしまいがちだったのです。しかし、付加価値を生み出しているのは従業員であり、その従業員にもっと焦点を当てるべきだと気づかされました。

 当社は、私の社長就任直前の2年間、連続して赤字を出していましたから、黒字化が急務でした。しかし、株主のために従業員に負荷をかけてはいけない。株主も従業員もステークホルダーであり、社長は双方に対してフェアであるべきだとの考えに至りました。

 そこで始めたことの一つが、従業員向けの決算説明会です。株主向けと同様のものに、従業員へのメッセージを加えて、全国を回って行なっています。

 利益を大きくするためには、新店をどんどん増やし、不振になった既存店を閉じていけばいいと思うかもしれませんが、それでは持続的な成長ができません。実際、以前は、新店を積極的に出した時期は増収減益となり、利益が出ないために出店を止めた時期は減収増益となって、それを繰り返していました。

 持続的成長のためには既存店の売上げを伸ばすことが重要で、そこに注力する、というような戦略の説明も、従業員向けの決算説明会でしています。

 自分の仕事が経営にどう貢献しているのかがわかると、仕事の意義を感じられ、モチベーションが高まります。また、自分が働いているのとは別の事業の状況を知り、互いに助け合っていることがわかると、グループ全体で従業員同士のリスペクトも生まれます。

 決算書の読み方などを教える経営塾も、従業員向けに開いてきました。

 6期連続増収増益が実現できたのは、従業員の意識が変化してきた結果でもあると思います。

 

《『THE21』2019年7月号より》

著者紹介

菊地唯夫(きくち・ただお)

ロイヤルホールディングス〔株〕代表取締役会長

1965年、神奈川県生まれ。88年、早稲田大学卒業後、〔株〕日本債券信用銀行(現・〔株〕あおぞら銀行)入行。頭取の秘書などを経て、2000年にドイツ証券会社東京支店に入社。04年、ロイヤルホールディングス〔株〕に執行役員総合企画部長兼法務室長として入社。10年、同社代表取締役社長。16年、同社代表取締役会長兼CEO。19年より現職。

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