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YOSHI×菅田将暉×仲野太賀『タロウのバカ』の大森立嗣監督に聞く

2019年08月24日 公開

大森立嗣(映画監督)

「生産性から零れ落ちた存在」を肯定する理由

 戸籍もなく、学校に通ったこともなく、社会の枠外で生きるタロウ(YOSHI※写真真ん中)。対照的に、自暴自棄になって自ら社会の外へ滑り落ちていくエージ(菅田将暉※写真左)。そして、ごく普通の中流家庭で育った臆病者のスギオ(仲野太賀※写真右)。3人は、何にも束縛されず、自由な毎日を送っていた。しかし、一丁の拳銃を手に入れたことから、事態は一変。それぞれが過酷な現実と向き合うこととなり、その過程で「社会的弱者の排除」「ネグレクト」「反社会勢力の存在」などといった日本社会の闇が浮き彫りになる。絶望的に壊れた世界を、3人はどう生きるのか――。『まほろ駅前』シリーズなどの軽やかな作風から『さよなら渓谷』などシリアスな作品まで手掛け、日本映画界で最も勢いのある映画監督のひとりである大森立嗣氏に、『タロウのバカ』に込めた想いをうかがった。

取材構成 野牧 峻

 

「わからないもの」を受容する力の低下

――冒頭から「すごい作品を観てしまった……」と思いました。『タロウのバカ』を制作しようと思われたきっかけは、なんだったのでしょう?

大森 実は、『タロウのバカ』のベースとなる脚本は20代の頃にできていました。ただ、撮影する機会がなく、「いつか撮りたい」と思いながら、そのままになっていました。

――モチーフはあったのですか?

大森 具体的なものはありません。ただ、「多くの人が合理性や生産性に意識が向きすぎたあまり、生きるうえで大切な何かを見失ってしまったのではないか?」という時代に対する違和感を表現したかった、というのはありますね。

 戦後、日本経済が発展していく中で、多くの人は意味や意義で物事を理解しようとしてきた。そうすると、理解できない物事や社会に対する意義を見出せなかった人々を排除しようとします。「わかるもの」や「わかりやすいもの」に対しては、すぐ「いいね!」と反応するのに。

 実際に、今、社会の枠組みから零れ落ちた人たちを排除する動きが加速度的に進んでいますよね。まるで、社会的に意味のある人には価値があり、意味のない人には価値がない、というような。

 でも、エージみたいに、社会の枠組みに収まっていた人が、ふとした拍子に枠外に零れ落ちることもあるわけです。

――冒頭の場面、半グレの吉岡(奥野瑛太)が障がい者施設で「戦争の時も今も命に価値はない」と叫びながら、混乱した表情を見せますよね。あのシーン、とても印象的でした。相模原の障がい者施設での事件※を彷彿とさせるような……。

大森 多くの人は、「生産性がない人に生きる意味はない」なんて思っていないはずです。でも、合理性や生産性を否定できないという現実もある。吉岡はそれを自分の中で消化しきれていない。だからこそ、彼は戸惑いました。

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著者紹介

大森立嗣(おおもり・たつし)

映画監督

1970年、東京都出身。大学時代にな言った映画サークルをきっかけに自主映画を作り始め、卒業後は俳優として活動しながら新井晴彦、阪本順治、井筒和幸らの現場に助監督として参加。2005年『ゲルマニウムの夜』で監督デビュー。第59回ロカルノ国際映画祭コンペティション部門、第18回東京国際映画祭コンペティション部門など多くの映画祭に正式出品され、国内外で高い評価を受ける。13年に公開された『さよなら渓谷』では、第35回モスクワ国際映画祭コンペティション部門にて日本映画として48年ぶりとなる審査員特別賞を受賞するという快挙を成し遂げる。その他の作品に『セトウツミ』(16)、『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』などがある。

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