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衝撃の逮捕から1年。ゴーン氏の「失敗の本質」はどこにあったのか?

2019年10月17日 公開
2020年01月15日 更新

法木秀雄(早稲田大学ビジネススクール元教授)

「21世紀最大の転落劇」から何を学ぶか

元日産自動車北米副社長。BMWジャパン、クライスラージャパンのトップ。そして早稲田大学ビジネススクール教授という経歴を持つ著者が、自身の経験と国内外の豊富な情報をもとに書き上げた『「名経営者」はどこで間違ったのか ゴーンと日産、20年の光と影』が発売される。

まさに21世紀最大ともいえるこの転落劇から学ぶべきことと、日本への「警鐘」とは何か。本書から抜粋・再編集してお伝えする。

 

日産にかけていた「唯一のピース」

日産は私が大学を卒業して最初に入った企業である。そして23年間、工場人事、海外事業計画、海外プロジェクト、そして経理の各部門を経て、自ら立ち上げた北米地域本社の経営職を最後に退社した。

その後はBMWジャパンやクライスラージャパンの経営者に転身し、さらには経営大学院の教授として教鞭をとったが、その間、ライバル企業として、そして研究対象として、ずっと今日までフォローしてきた一番身近な企業である。

そんな立場だからこそ、内部からの視点と外部からの視点の双方から、日産について語ることができると自負している。

かつての日産には各部門に、人間性豊かで実務に精通した上司がいた。私もそんな上司たちから、実に丁寧なOJTにより育ててもらい、その後のビジネスマン、大学人としてのベースを築くことができた。日産の技術、ものづくり、マーケティング、管理部門の人材の厚さは、身をもって経験している。

ただ、唯一欠けていたのが「使命感に燃えたプロの経営者」であった。つまり、ゴーン氏は、日産に欠けていた唯一のピースを埋めたのである。

 

幸福だった5年間と、問題の多かった15年間

ただし、日産にとっても、ゴーン氏にとっても、ゴーン氏を派遣したルノーにとってもウィン・ウィンの極めて理想的な関係が維持できたのは、1999年のトップ就任後の最初の5年間だけだった。それ以降はむしろ、日産の潜在能力のレベルアップを阻害した面が大きいと見ている。

ひたすら販売台数というスケールを求めたことによる弊害。EV(電気自動車)への前のめりな投資による損失。短期利益志向の行きすぎによって生じた品質の低下。日本人社員の軽視。そして、一人の人間に20年にわたって権限が集中したことによる問題……。

今回のゴーン氏逮捕の容疑に関しては、同氏一人に権限が集中した状態が20年近くに及んだことがその大きな原因であることは言うまでもない。もともとは改革に全力を投じていたゴーン氏がなぜ、こうなってしまったのだろうか。

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