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『さよならミニスカート』アイドルは何を売っているビジネスなのか?

2019年11月08日 公開

〈連載 THE21的キーブック〉牧野あおい/集英社

 女子生徒が変質者に太ももを触られる事件が起きると、男子生徒が、短いスカートを穿いているのだから自業自得だという旨の発言をする。そうした女性蔑視を描いた漫画です。逆方向の、男性に向けられた女性の偏見も描かれます。そして、偏見に抗って生きるのも、順応して生きるのも、息苦しいことが描かれます。

 舞台は高校のクラスなのですが、もう一つ、女性に向けられた男性の視線が問題になり得る場が登場します。それが、アイドルとファンが作る場です。

 主人公・神山仁那は「地球最後のミニスカアイドル」をキャッチフレーズにした女性アイドルグループのセンターだったのですが、握手会で男性参加者に刃物で切りつけられた事件を機に、引退しています。この事件に対して、男性に媚びを売っていた報いだというような声が、世間の一部から聞こえてくる。ミニスカートを穿いているから痴漢に遭うというのと、同様の見方でしょう。

 作者のアイドルに対する見方は好意的です。人々に元気を与える仕事だとし、仁那に、生まれ変わったら本物のアイドルになりたいとまで言わせています。だからこそ、「アイドルは媚びを売っている」という見方を否定的に描いているのだと思います。

 では、アイドルは何を売っているのか? 男子生徒からの期待に応える言動をすることでクラスの中でサバイブしている長栖未玖は、アイドルとして「可愛い」を売っているのはどんな気分だったかと尋ねます。仁那の答えは、アイドルはファンに元気を与えるだけではなく、応援などの、ファンからのお返しをもらえるということ。ビジネス風に言えば、顧客との間に精神的なWin-Winの関係ができてこそ本物のアイドルだ、ということでしょう。

 それでは、媚びや可愛さを奪われる対象にならず、元気を与えて応援してもらうビジネスとしてのアイドルが成立するためには、何が必要なのか? まだ2巻しか出ておらず、休載中とのことなので、作者がその答えを示すのかどうかわかりませんが、それは人間性ではないかということが示唆されているように思いました。同じアイドルグループのメンバーだったサラは、アイドル時代とは違って、色々なことに傷つき、うまく割り切れないでいる、人間らしくなった今のほうが好きだと仁那に言います。

 実際のアイドルの現場がどうなっているのか私は知りませんが、「人間性で売る」「ストーリーで売る」というビジネスの純化された姿の一つがアイドルなのかもしれません。

 

 最後に蛇足です。『さよならミニスカート』というタイトル通り、もともと「ミニスカアイドル」だった仁那は、今はスカートではなくスラックスを穿いて高校に通っているのですが、そもそもなぜ女子高生はスカートを短くして履くのか? 学生服メーカーの研究員として女子高生へのインタビューを続けてきた佐野勝彦氏は、著書『女子高生 制服路上観察』(光文社新書)の中で、その答えは大人の女性に対するコンプレックスだと述べています。これもまた興味深い本でした。(K)



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