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「全員に好かれよう」なんて思うから伝わらない!心をつかむアウトプットの秘訣とは?

2020年02月19日 公開
2020年02月20日 更新

山口真由(ニューヨーク州弁護士)

山口真由流「思い通りに伝える技術」

財務官僚から弁護士へ、そして現在は数々の報道・情報番組でコメンテーターを務め、講演会でも活躍している山口真由氏。的確に要点をまとめ、平易な形で聴き手に届ける語り口には定評がある。そんな山口氏のアウトプットのエッセンスを凝縮した『思い通りに伝わるアウトプット術』が発刊された。ここでは、本書のベースとなった山口氏へのインタビュー「人の心に届く伝え方」をお送りする。

 

中身よりもまず「プレーンな印象」を

柔らかな語り口ながらも、思わずドキッとするような本質をついたコメントで知られる山口氏。しかし、かつては「伝えるのが不得意」だったのだとか。

「もともと、非常に早口なのです。しかも熱がこもればこもるほどスピードアップして伝わりにくくなる、という困った性質(笑)。ですから、あえて日頃からゆっくり話すよう心がけています。コメンテーターのように即時の受け答えが求められる場では、つい日頃のクセが出てしまいますから」

現在、朝の情報番組『モーニングショー』に出演中。コメントを視聴者に届けるうえで気をつけていることはなんだろうか。

「まず、語る内容『以外』──例えば服装・身振り・口調などのクセをできる限りなくして、プレーンにすることです。これは、内容にスムーズに入ってもらうための心がけ。朝、家事や身支度をしながら番組を観る視聴者の方々には、内容よりも表面の印象が残りやすいものです。『わあ、服が真っ赤だ』となると、もう話の中身より、服のほうが気になってしまいますよね」

そう語る山口氏だが、この仕事に携わるまでは、違う考えを持っていたそうだ。

「弁護士時代、上司から『服装に注意せよ』と言われると抵抗を感じていました。身なりに気を配るより、中身に時間をかけるほうがクライアントに対して誠実なのではないかと。ところが自分が出演した番組の録画を、視聴者の方々と同じように別の用事をしながら片手間で観ると、内容よりも服装や、声の高さや口調が気になるのです。人が気にするポイントは意外に細部なのだな、と認識を改めました」

ちなみに、出演番組を録画して確認するのは毎日の習慣だという。

「映像で観ると、現場とは違った発見が得られます。現場で『失敗』と思ったことは画面を通すとさほどでもなく、予想外なポイントで改善すべき点が見つかります。例えば話を振られたとき、その相手の方の語尾をさえぎって話し始めてしまう、などは気持ちのよいものではありませんね」

 

自分の「専門分野」こそ伝え方に注意すべき

映像を確認して問題点を見つけるのは時に辛いが、「現状把握は必ず次につながる」と語る。話すことが不得意だったからこそ持てる姿勢と言える。

「もう一つ、得意でないからこそ綿密に行なうのが、『書いて準備する』ことです。取り上げる話題がわかった段階で、それについての意見を書き出して整理します。専門知識をしっかり伝える報道番組や討論番組ならば時間をかけて事実や背景を調べ、理論を組み立てます。他方、情報番組やバラエティではわかりやすさが求められますから、時間をかけるというよりは、表現の工夫に注力します」

いずれの場合も重視するのは、言葉の「背後」の部分だ。

「キーワードごとに、その言葉の意味や定義、分類を明確化します。例えば『この人は悪い』というとき、それが法律違反なのか、道義的責任の話なのか、自分の中で確かにしておくことで初めて、自分の考えが成立します。背後のロジックをしっかり組めば、言葉はシンプルでも納得感につながります」

専門分野である法律関係のコメントには、むしろ毎回かなり悩むという。

「短時間でわかりやすく伝えるには、正確性を犠牲にしなくてはなりません。条文があり、それに基づく判例はこう、一方で例外も……などという話は煩雑ですし、すぐ時間切れになります」

平易さと、最低限の正確性を双方保つには何が必要だろうか。

「一段、抽象化することだと思います。条文の内容、判例、背景まで総合的に理解して、どのような哲学に基づいてこの法律が成立したのかを把握すると、高い精度でポイントを絞り込めて、専門外の方にも通じる言葉に落とせます。わかりやすく話すには、より深く理解することが必要なのです」

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