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ビジネスは「施し合戦」。値切り交渉に隠された深すぎる意味(モロッコ)

2020年04月07日 公開
2020年04月10日 更新

<連載>世界の「残念な」ビジネスマンたち(53)石澤義裕(デザイナー)

あえて量の少ない洗剤を買う理由

スーパーマーケットは、防毒マスクをした人がいた以外、平常営業です。

前回は一個もなかった卵が棚いっぱいに並び、ベーコンも鶏肉も復活。トイレットペーパーも山積みです。

山積みといえば、洗濯用液体洗剤。どれもこれも分量がまちまちです。

透明なプラスチック容器の喉元まであふれているものがあれば、肩に届いていないものもあります。手作業で洗剤を詰めているにしても、あまりにも不揃い。

これではたくさん詰まった洗剤から売れて、遅く買うと量が少ない。

同じ金額を払うのに、得をする人と損をする人がでるじゃないかと心配したら、イスラム教にはいい加減な仕事を吸収する「教え」がありました。

生活にゆとりのある人は量の少ない洗剤を買い、誰かに「得」を譲るのです。

いくら教えがあるにしても、わざわざ損な買い物をしますかねーと疑いたくなるものですが、「貧しい人への施し」は、神さまへの「貸し」となるお約束。神さまから「幸せ」として返済してもらえるので、喜んで少ない量の洗剤を買えるモロッコです。


自分が燃えているのに気づかないくらい、仕事熱心な人もいます。

 

値切り合戦は「施し合戦」だった!?

ただ、「幸せ」を味わえるのは来世。いつですかそれ?みたいな気の長い話ですが、この損して得をとれ!系の「施し」は、価格交渉にも活きています。

常々、モロッコでの買い物の価格交渉が長すぎて面倒臭いと思っていたのですが、これ、実は値引き合戦ではなく施し合戦だったのだと思えば合点がゆきます。

有名観光地のマラケシュで、手作りのランプシェードを買おうとしたときのこと。

おじさん、これ、いくら?

「1万円!」

マジっすか! ボルなよ、おやじーって腹が立ちますが、じゃ、100円でどう?って逆ボリをかまします。

「じゃ、9,000円でいいよ」

じゃ、200円は?

「ラストプライスは、8,000円!」

こっちもラストプライスで、300円!

「よしわかった、旅人よ。じっくり話そう。まずはお茶を飲もう!」

ってことになりまして、甘いミントティーを飲みながら身の上話を語りあいます。

互いの懐具合を探り合って、あいつは貧乏そうだからちょっと割り引いてやって、幸せ貯金でもしようかといった、「施し=幸せ」の頃合いを探っているのです、彼ら。どうりで長引くわけです。

だから、たとえボッタくられたとしても損はしていません。幸せです、「来世」ですが……。

ということで、魚屋さんと顔なじみになればなるほど値段が高くなる仕打ちも理解できました。

なんでやねん!っていちいち腹を立てていましたが、どうやら来期の人生はそうとう幸せそうです。

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