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実は8割が明治以降の創作!? 教養として知っておきたい「落語の基本」

2020年05月20日 公開
2023年02月21日 更新

稲田和浩(大衆芸能脚本家)

 

ラジオ世代を虜にした三代目・三遊亭金馬

落語の知識がなくても、聞くだけで楽しめるのが落語の良さ。どれを聞いてもおもしろいのですが、初心者の方なら、三代目三遊亭金馬(1894~1964年)から入ってみてはどうでしょうか。今はCDやDVDの他、インターネットでも落語を手軽に聞くことができます。

今、70~80代の落語ファンは、子供の頃にラジオで聞いた金馬をきっかけに落語が好きになった人がほとんどです。金馬の代表作『居酒屋』は、小僧が客に品書きを伝えるだけの噺ですが、その言い立てを覚えようと、皆がラジオに耳を押し当てて聞いたものです。

『居酒屋』は、今聞いても全然古くありません。他に、五代目・古今亭志ん生(1890~1973年)や、六代目・三遊亭圓生(1900~1979年)などもお勧めです。

志ん生は、言葉のセンスが抜群の噺家で、『火焔太鼓』や『富久』などが有名です。圓生は、ネタの多さやクオリティの高さでは並ぶ者がいない昭和の名人です。特に人情噺が秀逸で、私も中学生の頃に『死神』を聞いて魅了されました。

表現力や間の取り方などの技術で言えば、今の噺家のほうが上手いかもしれません。ただ、彼らは落語に描かれる時代を生きてはいません。そのぶん熱心に研究や勉強をすることで、表現に活かしているのだと思います。

それに比べ、80代より上の噺家たちは、落語の世界を肌身で知っている人たちです。昭和30年頃までは、建物も人々の暮らしも、江戸時代の雰囲気がなんとなく残っていました。“ダメなやつ”として落語に登場する与太郎も、すぐ身近にいたのです。

 

初心者が必ず行くべき魅力たっぷりの「寄席」

これから落語を聞いてみようという人に一番お勧めしたいのは、「寄席」に行ってみることです。東京には4軒の寄席がありますし、横浜、名古屋、大阪、神戸、仙台にも1軒ずつあります。毎日、昼頃から夜まで通して、たったの2000~3000円。好きなときに出入りできます。

寄席が何よりいいのは、落語だけでなく、漫才や紙切り、三味線のような色物まで、幅広い芸を見ることができることです。何かしら面白いものに出合えるのが、寄席なのです。

名人の独演会に足を運ぶのもいいですが、初心者の場合は、それが自分に合うかわかりません。寄席でお気に入りの落語を見つけたあとに、その人の独演会に行ってみるとよいでしょう。

一人の人間が色々な人物を演じ分け、しかも噺だけで人々を笑わせることのできる芸能は落語だけです。仕事帰りにちょっと寄席に立ち寄って、間抜けな泥棒の話に笑ったり、親子の絆にしみじみしたり。そんな時間が持てたら、人生が豊かになる気がしませんか?

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