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「葬儀の喪主」は忙しすぎる…家族葬が生んだ穏やかな“お別れの時間”

2020年07月10日 公開
2020年07月10日 更新

中道康彰(きずなホールディングス代表取締役社長兼グループCEO)

 

採算が合わないプランにあえて挑んだ

当社の前身であるエポック・ジャパンが設立されたのは00年のことです。「新しい葬儀の形を生み出そう」と全国の葬儀業者の有志が集まって、誕生しました。

その創業者であり、宮崎で葬祭業を営んでいた高見(信光氏)が発案したのが、「家族葬」です。01年10月に日本初の家族葬ホールをオープン。当初から、明瞭な価格体系の、家族だけの葬儀というコンセプトで行なってきました。

当初は、家族葬を行なっているのは当社だけでしたが、徐々に他にも取り扱う会社が増えてきました。そこで、差別化を図ろうと、3年前からオリジナルプランを始めたのです。

オリジナルプランを行なう同業他社は、ほとんどありません。なぜなら、まったく採算に合わないからです。

通常、亡くなってからご葬儀までは1~2日間程度。その間に、ご遺族から写真や過去のエピソードをいただいて、祭壇や展示品を作り込むのですが、とにかく仕事量が多く、通常の葬儀の10倍ぐらいの手間がかかります。当社も、始めた当時は大赤字でした。

しかし、その人らしい家族葬をしたいというニーズは絶対にある。そう確信していたので、オーダーメイドのノウハウを築き上げ、スタッフをトレーニングしました。結果、3年でようやく採算ベースに乗りました。

また、スタッフに過剰な負担をかけてはいけないので、ここ3年間で、スタッフの数を2倍近くに増やしました。利益率は下がりましたが、労働環境を大きく改善でき、長く働き続けられる会社になったと自負しています。そのかいあってか、「ファミーユで働きたい」という従業員が同業他社から次々と入ってきています。

 

想いを共有できる会社を巻き込んで全国展開へ

上場を目指した理由の一つは、透明性のある、信頼できる葬儀会社という選択肢を作りたかったからです。葬儀社は地場の小さな会社が多く、上場企業がほとんどありません。この状況を変えたかったのです。

もう一つの理由は、全国展開を目指すためです。

設立当初から目指していましたが、15年間で5道県・50ホール程度に留まっていたので、近年は、地場の葬儀会社のM&Aに力を入れており、16年と18年に愛知県と京都府でそれぞれ1件ずつのM&Aを実行しています。上場すれば知名度が上がり、資金調達もしやすくなるので、さらにM&Aが進めやすくなります。

ただ、当社のビジネスモデルは、想いを共有していただかないと実行できないので、やみくもにM&Aをしても意味がありません。同じ想いの会社と組んでいきます。

私たちは、日本のすべての葬儀が家族葬になればいいと思っているわけではありません。あくまで、希望する方に選択肢をご提供したいということです。そして、ご遺族が「悲しみの中にも幸せな気持ちが生まれてきた」と感じられる葬儀を一つでも増やしたい。そう考えています。

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