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創業大正15年、大手化学メーカーが忘れない「他人のやれないことをやる」という精神



2021年04月12日 公開

川原仁(〔株〕クラレ代表取締役社長)

川原仁
写真撮影:まるやゆういち

日々目まぐるしく変化するビジネスの世界で、長きにわたって事業を続けている企業は、どのような考え方で仕事をしているのか。

老舗企業の経営トップたちに話を聞き、その秘密に迫る。今回は、グローバルに事業を展開する大手化学メーカー・クラレを取材した。

※本稿は『THE21』4月号より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

企業の社会的責任を重視した創業者

大原孫三郎が化学繊維のレーヨンを製造するために倉敷絹織を設立したことから始まった当社は、2026年に創業100周年を迎えます。

孫三郎は、社会的責任をとても重視した人でした。大原社会問題研究所や、女子工員の劣悪な労働環境を改革するために労働問題に取り組む倉敷労働科学研究所を私財で設立しました。

また、倉紡中央病院(現・倉敷中央病院)や大原美術館を設立して、地域の医療・福祉や教育・文化、人々の生活向上に貢献しています。

「社会から得た財はすべて社会に返す」。これが、孫三郎の信念です。

2代目社長の大原總一郎にもそれは引き継がれ、公害という言葉がまだ珍しかった時代に、いち早く企業の排出責任に言及していました。

創業家の教えは社内に生き続け、クラレの企業文化を形作ってきました。

15年に企業ステートメントを再編しましたが、それまで多くの場面で表明していながら正式なステートメントとして掲げていなかった「世のため人のため、他人のやれないことをやる」という企業文化を、ミッションステートメントとして明確に位置づけました。これは、總一郎がよく口にしていた言葉です。

この言葉が意味するのは、「独創的な技術開発による製品でこそ、長期的に社会に貢献できる」という考え方です。新たな研究や事業を始める際には、「これは本当に世のためになるのか」「本当にクラレがやる意味があるのか」という議論をしています。

 

独自技術を追求し社会に役立つ事業を成す

「他人のやれないことをやる」の精神が体現された代表的な事例が、日本初の国産合成繊維として開発したビニロンの工業化です。1950年のことでした。

当時、他社が手がけていたナイロンやポリエステルなども、当社のレーヨンも、原料を海外に頼っていたため、収益が不安定でした。高品質で、安定した収益をもたらす製品を作るには、輸入に頼らず、原料から一貫して自社生産しなければならない。

そうした強い信念を持っていた總一郎は、国産の原料から作れるポバールに目をつけ、ポバールからビニロンまでを一貫して製造する技術を確立させたのです。

ビニロンの量産化には、技術面以外でも、大変な苦労がありました。

当時の資本金の約6倍もの資金調達が必要で、どの銀行も融資に二の足を踏む中、總一郎自らが日銀総裁に直談判して、何とか協調融資を取りつけました。

また、通産省(当時)は、「繊維会社は繊維だけを作ればいいので、原料の化学製品の製造までやる必要はない」と主張しました。總一郎は、良い製品を作るためには良質な原料を自社で製造する必要があると粘り強く説き、通産省の了承を得ることに成功しました。

こうして、国産初の合成繊維の工業化に成功しました。まさに、他人のできないことを成し遂げたのです。

さらに言うと、ポバールの生産にまで踏み込んだことは、そこから派生した「エバール」という高付加価値製品の開発にもつながりました。

エバールは、プラスチックの中で最もガスバリア性が高い(気体を通しにくい)性質を持っています。

実は、エバールもなかなかものにならず、基礎研究を始めてから15年が経った72年に、ようやく事業化を果たしたという経緯があります。

エバールは、軽量で長期保存が可能な食品包材に対するニーズに合致し、食品包装用途の需要を急速に伸ばしました。その後、自動車用途において、気化したガソリンの大気中への拡散を防止すると共に、車体の軽量化にも寄与することから、燃料タンク向けの需要も獲得していきました。

最近の例で言えば、来年、熱可塑性エラストマーや耐熱性ポリアミド樹脂PA9Tなどのイソプレン事業を、日本以外のアジアでは初めて、タイで立ち上げます。

イソプレン事業は、今ではポバールやエバールなどのビニルアセテート系事業に次ぐ柱となる事業の一つですが、軌道に乗るまでには厳しい道のりがありました。72年に鹿島で始めたものの、直後のオイルショックで大打撃を受けたのです。その後、製造プロセス転換によるコストダウンや高付加価値製品へのシフトなどで活路を見出し、約15年かけて、ようやく黒字化を達成しました。

このように、当社の事業展開は、今の時代の流れからすると、スピーディではないかもしれません。しかし、独自の技術にこだわって、粘り強く開発を続けた結果、花開いた事業が数多くあります。

企業には、持続的に存在し、持続的に社会に貢献していく責任があります。それを果たすために、独創的なやり方で、クラレにしかできないことをやっていく。この精神は、今も社内のあらゆる部署に根づいています。

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