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日本でも目立ち始めた、「スタートアップ」と「大手企業」タッグの意外な効用

2021年07月15日 公開

佐俣アンリ(ベンチャーキャピタリスト)

佐俣アンリ

事業会社や機関投資家から資金を預かり、ネット印刷を手がけるラクスルや仮想通貨取引所のコインチェックなど、数多くのスタートアップに投資してきた佐俣アンリ氏。近年、日本でも見られるスタートアップと大企業が協力する潮流は、どのような意味を成すのか。(取材構成:長谷川敦)

※本稿は、THE21編集部 編『2030年 ビジネスの未来地図』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

 

スタートアップと大企業が組む時代に

気候変動などの社会課題を解決するには、スタートアップだけでなく、大企業の力も、もちろん重要です。今後は、スタートアップと大企業が、お互いの強みを活かしながらコラボレーションしていく場面が増えていくでしょう。

例えば、アメリカの製薬会社のファイザーが提供している新型コロナウイルスのワクチンは、ドイツのビオンテックというスタートアップとの共同研究によって開発したものです。

スタートアップの強みは、業界のしがらみや慣習、常識にとらわれず、ユーザーが必要としているものに対して一直線に技術開発や製品開発ができるところです。大企業とはスピード感が違います。

一方、大企業は、資本力や生産・物流の体制、技術者の層の厚さなどが、スタートアップとはまったく異なります。

ですから、新型コロナウイルスのワクチンのように、新しい技術を短期間で開発し、大量に生産・提供する必要がある場合、スタートアップと大企業が組むことが非常に有効なわけです。

日本でも、スタートアップと大企業が組んで一つの事業に取り組むケースが、次第に増えつつあります。

これには二つの要因があります。一つは、大企業の経営陣の中に、スタートアップと組むことに抵抗感を抱かない柔軟な思考ができる人が増えていること。

もう一つは、スタートアップの経営者の中に、大企業出身の人が増えていることです。つまり、スタートアップと大企業が共通の言語で話せる環境が整い始めているのです。

これまでは、「大企業では新しいものを生み出せない。社会を変えていくのはスタートアップだ」というように、スタートアップと大企業は二項対立で語られがちでした。しかし、本当に社会を変えたいのなら、対立ではなく連携が不可欠です。

大企業はスタートアップを「新規事業をスピーディに形にしていく機能」として見ればいい。一方、スタートアップは、大企業を「自分たちの事業を社会的に影響力があるものへと拡大していく装置」として見ればいいのです。

 

年長者より若者のほうが世界を正しく見ている

僕は、「若い人たちには、今の世界がどんなふうに映っているのか」を常に意識しています。

「世界を変えたい」という情熱と才能を備えた高校生を対象とした奨学金制度に関わっていることもあって、高校生と話す機会が多くあるのですが、彼らと会ったときには、「今、何に関心があるの?」「どんなことを考えているの?」といった質問を積極的にぶつけるようにしています。

僕は、基本的には、「世の中を見る目や世の中に対する感じ方は、若い人たちのほうが正しい」と考えています。

年長者は、過去に経験してきたことをもとに世界像や価値観を築いているのに対して、若い人たちは、今世界で起きていることをもとに自分の生き方や価値観を築こうとしているからです。

彼らと話していると、時代が転換期にあることを実感します。彼らは自分たちの両親のような生き方、つまり、「一流大学を出て、大企業に就職さえできれば、一生安泰で幸せ」といった生き方が、これからの時代のロールモデルにはなり得ないことを確信しています。だからこそ、自分がこれからどう生きればいいか、迷っています。

僕は彼らに、「少なくとも前の世代の人たちと同じ生き方をしてはいけないということがわかっているだけでもハッピーだよ」と話しています。

読者の皆さんにも、新入社員や若手社員から色々と話を聞いてみることをお勧めします。

「なるほど、彼らには世界はこんなふうに映っているのか。だったら会社をすぐに辞めたくなるのもわかるな」といった気づきが得られるはずです。

彼らの生き方や考え方、世界の見え方を知ることは、自分自身の今後の生き方や考え方を見つめ直すきっかけにもなります。若者が、皆さんの未来の道しるべになってくれるはずです。

 

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