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「小規模で豊かになる」これからの地方創生に必要な“割り切り”と“活路”

2021年07月22日 公開
2023年02月21日 更新

木下斉(エリア・イノベーション・アライアンス代表理事)

木下斉

日本全体で人口が減少しているが、特に地方には人口減少を課題と捉えている地域が多い。

「地域創生と言えば人口を増やすこと」というのが常識化しているが、専門家である木下斉氏は、そうではないと言う。(取材・構成:林加愛)

※本稿は、『THE21』編集部編『2030年 ビジネスの未来地図』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

 

企業城下町は衰退。小規模な町に可能性がある

これからの10年で地方に起こり得る変化には、二つの対照的な流れがあります。

一つ目は、工業関連地域の縮小です。

日本では、鉄鋼、造船、化学などの重化学工業は、いずれも衰退傾向にあります。したがって、大企業が立地することによって成り立っていた「企業城下町」と呼ばれる地域は、今後、今以上に厳しい状況になるでしょう。

大規模な産業を支えるために、大人数を雇用してきた仕組みが、成立しなくなるのです。

産業革命を起こしたヨーロッパも、アメリカも、同様の衰退局面を経験してきたわけで、日本がそれに続く必然的な現象でもあります。

逆に、可能性を感じさせるのは、人口数千~数万人規模の小さな町です。質の高い農林水産品やその加工品、工芸品、付加価値の高いレストランや宿泊施設など、高額でも買いたいと思わせるモノやサービスが、近年増えつつあります。

その町ならではのモノやサービスを小規模・高単価で提供するビジネスが、地方の新しい価値を作り出していくでしょう。

ただし、工業系でも、独自の技術のある中小企業は好調です。

例えば福井県鯖江市には、金属の微細加工技術を医療関連機器に転用することで、新たなマーケットを切り拓いている中小企業があります。

規模は小さくても、長年着々と革新を進めてきた企業は強いと言えるでしょう。

 

昭和の成功モデルから脱却することが必要

第1次産業やその関連産業、工芸品などを中心に、活気ある個人事業主や中小企業が増え、それらが集積することで地域が活性化していく。

この流れを作ることが、これからの地方創生の望ましい形です。

10年後、20年後の日本の産業の一翼を担うことにもなるでしょう。

その兆しが現れてきているのに、残念なことに、ほとんどの地方は無関心です。「地方活性化」のイメージが旧態依然としていて、「移住を促進して人口を増やす」「大企業を誘致して雇用を増やす」といった方法で活気を取り戻そうとしているからです。

しかし、それは実現不可能です。そうした方法は、人口ボーナス期に成立した昭和の成功モデルです。

人口が増えていた昭和の時代には、居住地や商業地を増やすべく、全国で区画整理や住宅整備がなされ、それが町の発展を促進しました。しかし、人口減少期にある今、その方法にはまったく合理性がありません。

さらにさかのぼると、近代以降の日本は、常に人が多すぎる、つまり、「食い扶持が足りない」状態にありました。仕事を増やして大人数を食べさせるため、地方も雇用を増やす受け皿になったのです。それが地方にとって「悪しき」成功体験になっています。

その時代が終わって久しいにもかかわらず、古いモデルで乗り切ろうとして失敗するパターンが、各地で繰り返されているのです。

ここは、発想の転換が不可欠です。

人口は増えなくていい。さらに言えば、減ってもいいのです。一定の価値を生む産業に対して頭数が少なくなれば、1人当たりの所得は必然的に高くなり、豊かになります。

フランスで1人当たりの所得が最も高い都市は、人口わずか2万人強のエペルネーという町などです。エペルネーにはシャンパンのメゾン(ワイン生産者)が集まっており、まさに第1次産業を原動力とした地方の理想的な例です。

日本でもホタテ産業集積で稼ぐ北海道猿払村が渋谷区を上回る全国3位の1人当たり平均所得を稼いでいたりするのです(2017年)。田舎だから、農林水産業だから稼げないなんてことはありません。

ヨーロッパにも、日本と同様に、かつて工業で栄え、のちに衰えた町が多々あります。そのヨーロッパには、ワインやチーズ、皮革産業などを小規模に展開する人々が集積し、高い平均所得を得て、そのお金を地元に投資して産業を再構築する例が見られます。

日本は工業製品を輸出しているけれども、それ以上に、ワイン、チーズ、ブランドバッグなどを購入するから、フランスとの貿易は赤字だったりするわけで、このようなローテク産業も馬鹿にできません。

スペインのバスク地方では、ワイン醸造や酪農を営む人々がお金を出し合い、自分たちでショッピングモールも運営しています。

美味しい飲食店が軒を連ねる町に世界中から観光客が集まり、外貨獲得でさらに潤う好循環ができています。結果、スペインで最も平均所得の高い州の一つとなっています。

その土地でなければ提供できない価値を作り出していけば、人口が減っても町は生き残れるのです。

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