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稲盛和夫と永守重信...若い世代も共感する両者の「パーパス経営」

2021年10月15日 公開
2023年02月21日 更新

名和高司(一橋大学ビジネススクール客員教授)

 

なぜ今、「パーパス経営」が注目されているのか?

――稲盛さんや永守さんの考え方は、後進に受け継がれていると思いますか?

【名和】特に稲盛さんについては、盛和塾で学んだ経営者も数多くいますし、著書を読んで勉強されている方も多くいます。ただ、若い方が本を読まなくなっているのは残念ですね。私がことあるごとに稲盛流の話をするのは、志の高い若い方に稲盛さんの著書を読んでほしいからです。

『稲盛と永守』を読んだ感想を見ていると、稲盛流にのめり込んでいる方は、「こんな中途半端なものを読むより、稲盛さんの著書を読んだほうがいい」と言っています。確かにそれはその通りなのですが(笑)、この本が、稲盛さんの著書を読んでいない人が読むきかっけになれば、そこに現代的な意味があると思っています。

――実際に、稲盛さんの著書を読んだことがない若い方からの反響もありますか?

【名和】あります。「過去の人だと思っていたけれど、自分の考えに合致している」と共感してくれる方が多いですね。志の話にしても、SDGsのようなことを創業時からやっているという話にしても、一人ひとりが自分の思いを遂げる組織を作るという話にしても、利他の話にしても、すべて今日的なんです。

今の若い方が、普通の企業に飽き足らず、「こんな企業を目指したいな」と思うことが、稲盛さんの話の中にある。それを再発見して、TwitterやInstagramに投稿してくれたりもしています。

――最近になって盛んに言われるようになったことを、稲盛さんははるか以前からやっていたわけですね。

【名和】今は1周回って欧米からSDGsやサステナビリティが日本に入ってきて、どの企業もSDGsやサステナビリティを言っています。コンプライアンスのように当たり前のことになってしまって、それだけでは個性も魅力もなくなってしまいました。

そこで、企業にとって個性になるのが志(パーパス)だということになって、パーパス経営が注目されるようになっているのだと思います。それを敏感に感じている若い方にとっては、稲盛さんや永守さんはエッジが立った経営者なんです。

私も、『パーパス経営』(名和高司著/東洋経済新報社)と『稲盛と永守』で講演をしてほしいと中小企業やベンチャーから頼まれることが多くなりすぎて、うれしい悲鳴を上げています(笑)。

――稲盛さんや永守さんと同じような考え方の経営者は、例えば、他に誰がいるでしょうか?

【名和】タイプは違いますが、考え方が近いのは、ダイキン工業の井上(礼之)さん(会長)ですね。ユニ・チャームの高原(豪久)さん(社長)や、丸井グループの青井(浩)さん(社長)も、そうだと思います。

彼らは、稲盛さんや永守さんと違って創業者ではなく、カリスマというわけではないのですが、社員一人ひとりが活躍できる場を、仕組みで作っています。

――仕組みと言うと?

【名和】例えば、これ自体はリクルートが作ったのですが、「Will Can Mustシート」を使って個性の活かし方を明確にしたり、1on1で企業のパーパスを一人ひとりが自分事化したりする。すると、アマチュア選手がアプロのスリートに変わるような化学反応が起きます。仕事をすることが自己実現になるので、働きがいが生まれるのです。仕事が楽しくて仕方がなくなります。

――似たことは、海外のIT企業もしていますね。

【名和】有名なのは、セールスフォース・ドットコムですね。グーグルもそうで、マネージャーの条件は部下のコーチになることです。マイクロソフトは、以前は成果主義で、業績が低迷していたのですが、2014年にサティア・ナデラCEOが就任してから方向転換して、業績を急回復させました。

私は稲盛流を英語でも発信したいと考えているのですが、それは、アメリカのIT企業がやっているのと同じことを、日本では創業60年以上の製造業者がやっていることを知ってほしいからです。IT企業でなくても、新興企業でなくても、できるのだということを伝えたいですね。

 

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