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デジタル化の遅れは取り戻せるか...日本を停滞させた「その場しのぎ」の風潮

2021年12月08日 公開
2023年10月31日 更新

Lars Godzik〔Ginkgo創業者/パートナー(共同経営者)〕、太田信之〔OXYGY株式会社 代表取締役/アジアパシフィック代表パートナー〕

Lars Gozidk,太田信之

長年、経済大国として走り続けてきた日本。しかし、昨今世界で加速するデジタル化の流れからは大きく取り残されています。その要因とは――。

本稿は、多国籍企業でDXやM&Aに携わってきた経験を持つLars Godzik氏と、25年にわたりイノベーション、事業変革等のコンサルを行ってきた太田信之氏が日本企業とのDX導入経験を基に、議論を重ねて作成した内容を和文にしたものとなります。

主に日本企業のあり方そのものが、イノベーションやデジタルワーキングモデルの実現に障害になっている状況とその理由を検討します。

 

日本の成功とこれからの挑戦

日本は幸運にも、長年世界第2位、現在でも世界第3位の経済大国であり続けることができました。この間、国の経済は安定して成長してきました。少なくとも2000年までは。日本は現在でもまだ間違いなく経済大国です。しかし人口構造の変化、今後30年間で生産人口が1/4以上減少することから、企業の労働力が縮小することで、ビジネスはさらなるリスクに直面します。

さらにOECDの調査では、日本はG7諸国の中で、もっとも生産性の低い国であることが明らかになりました。グローバル化が加速し、デジタル化や、テクノロジーのイノベーションが進むことを考えると、競争を重視し、グローバル化に挑む会社は、より複雑で流動的、不透明かつ不確かな環境に対応しなければなりません。

その点で、日本の企業は、明らかに遅れているように見えます。特に日本の中小企業の中では、研究開発に使われるお金は、非常にわずかです(OECD諸国の平均が30%であるのに対し、日本は5% )。このデータから、日本のイノベーションへの本気度がどの程度のものか伺えます。

最近OECDが日本へ提言した三つの政策のうちの一つには、 生産性を上げることと、「ソサエティー5.0」に向けての道筋を整えるために、デジタルトランスフォーメーションを推し進める必要性について強調されています。 COVID-19によるパンデミックが、デジタル化をさらに加速し、企業はより柔軟に適応せざるをえなくなっています。

この課題に対してはさらに強いプレッシャーがかかっていて、2035年までにテクノロジーイノベーションとロボット化により、日本に今ある仕事の多くは自動化され、消滅するだろうと言われています。日本企業は、さらなるデジタル化と付加価値をもたらすことができる従業員を惹き付け、維持するための準備が必要です。

 

日本の企業文化とテクノロジーイノベーションの関係

日本の大手企業は組織として、生産性を上げ、経済を成長させるためのデジタル化の歩みに、より大きな時間とエネルギーをかけなければなりません。日本のビジネス文化は、集団主義、コンセンサスを取りながらの合意形成、長時間かけて行う方向性の確認などに代表される、同質性が高い文化、伝統的な特徴があると認識されています。

これらの特徴を組織文化に置き換えると、従業員は伝統的にチームに所属し、そこから得る価値観や信念に導かれ、自分に期待されている姿勢や態度に追いつこうと努力します。労働環境については、よく焦点が当てられるのが長時間労働ですが、それが雇用主と従業員の強い絆につながっています。言い換えると、従業員の生活が、会社を中心に据えたものとなり、組織の文化もそうした従業員の価値観を前提としたものになってきます。 

さて、これまでは日本の成長の秘密ともてはやされた、会社中心の生活・時間的コミットメントが、変化の激しい事業環境の中で、どのように変わっていく必要があるでしょうか。

「アジャイル型の働き方」は、今後競争に勝つために必要な働き方と言われています。アジャイル型の働き方を、「現場に権限と裁量権をもたせ、失敗してもそこから学びながら、より良いものを、より俊敏に、機動的に世の中に出していく働き方」と定義してみましょう。

この働き方を実現するために何が必要でしょうか。日本企業の管理職はこれだけ頑張って職場を良くしようとし続けているのに、結果的に本人も職場も苦しみ続けており、その上でこうした新しい働き方への移行に手間取っています。その理由を考えることは、これからの働き方を考えるのに非常に重要なテーマです。

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