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マーケティングだけでは厳しい時代...100年続く企業ほど貫いてきた「近江商人の考え方」

2022年02月22日 公開
2023年02月21日 更新

清水康一朗(ラーニングエッジ株式会社 代表取締役社長)

 

「絆」を作れるデジタルは資産

「ベネフィット(利益・恩恵)を売れ」という格言は、これまでのビジネス社会では常識でしたが、それは誰でもやっている事となった現在、開発ストーリーや理念を伝える「世界観」をいかに消費者にアピールするかが重要となってきました。

そこで台頭してきたのがSNS。消費者はリアルな情報をSNSで調べ、それが彼らと企業との「絆」となりえた場合に心を打たれることが、購買力へと繋がっていくのです。

今の消費者はきわめて賢明なので、彼らの信頼を勝ち取る為には、企業が本気で環境や社会問題に取り組むしかありません。消費者は、商品画像や説明文はもとより、コメントの文体や担当者が掲載されている写真の表情までを含めた全ての情報を「世界観」として認識しています。

SNSのフォロワー数という可視化されたものが全てではないものの、顧客と強い「絆」で結ばれている企業が信用される現在、「絆」を作れるデジタルは資産であるといって間違いないでしょう。

 

「株式至上主義」から「三方よし」への発想転換へ

2019年、AmazonやアップルやJPモルガンなど、アメリカの主要企業トップ200社が名を連ねるアメリカ最大規模の経済団体ビジネス・ラウンドテーブルが、これまでの「株式至上主義」から「地域社会への貢献や環境保全を重視していく方針」へと指標転換を発表しました。

これは、従来の成功哲学から、持続可能な経営へ切り替えよ!と、声高々に宣言された瞬間なのです。利益が出れば良しといったクールなアメリカが実践してきたビジネスの根底を変えるニュースとして、世界中から驚きを持って受けとめられました。

とはいえ、日本ではあまりニュースになりませんでした。この新しい指標は、日本古来から近江商人が実践していた「売り手よし、買い手よし、世間よし」という「三方よし」の商売の考え方で、日本では当然過ぎる内容だったからではないでしょうか。

そこで私が分析したのは、日本人が大切にしてきた「道徳」、ここに西洋の「合理性」を融合させるのが、これからの経営者のあるべき姿だと考えました。

相手によいことをするから、ずっと一緒にいられる=社員からは「この会社で働きたい」「会社の為に頑張りたい」と思わせ、お客さまからは「この会社とずっと付き合いたい」「このお店でまた買いたい」と思ってもらう事が出来るわけです。

シンプルな考え方ではありますが、100年続く企業へと成長させる基盤が、この「三方よし」の考え方。日本人が先祖代々から大切にしてきた道徳を現代的に実践する事で100年企業への道が開けるのは、世界で日本人だけが持つアドバンテージであり、誇るべき和の心なのです。

 

【PROFILE】
清水康一朗
ラーニングエッジ株式会社の代表。セミナーズの創始者。「社長の教養」を主宰。これまでにギリシャ哲学、インド哲学、東洋思想など探求し、西洋と東洋を融合した和魂洋才の経営哲学を確立。鮎川義介氏などの日本的経営の研究のみならず、アンソニーロビンズ日本事務局長、ブライアントレーシージャパン株式会社の代表取締役会長、ジェイエイブラハムジャパン株式会社の代表取締役会長、ドラッカー学会推進員などを歴任。

絆徳経営、絆徳哲学(モラルエンゲージメントの哲学)、「円形欲求モデル」、「集客フォーミュラ(∑CR×V)」、「マーケティングαとβ」、「タイムリバーサル」、「W-PDCA」などの数多くの経営理論を提唱。日本人の経済教育、歴史教育、道徳教育をライフワークとして力を注いでいる。

「精神的にも経済的にも豊かな日本に向けての貢献したい」という想いから、業界最大級のポータルサイト「セミナーズ」を立ち上げ、経営教育の流通に努めている。主に世界トップクラスの講師による外国人のビジネスセミナーのイベント規模において最大規模の実績を持つ。

 

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