THE21 » キャリア » 人の悩みは結局1つ? 松下幸之助が説いた「割り切る」心の持ち方

人の悩みは結局1つ? 松下幸之助が説いた「割り切る」心の持ち方

2022年09月09日 公開
2022年09月09日 更新

渡邊祐介(PHP理念経営研究センター代表)

松下幸之助の「順境よし逆境なおよし」
イラスト:松尾達

人生100年時代を生きるビジネスパーソンは、ロールモデルのない働き方や生き方を求められ、様々な悩みや不安を抱えている。

本連載では、激動の時代を生き抜くヒントとして松下幸之助の言葉から、その思考に迫る。グローバル企業パナソニックを一代で築き上げた敏腕経営者の生き方、考え方とは?

【松下幸之助(まつしたこうのすけ)】
1894年生まれ。9歳で商売の世界に入り、苦労を重ね、パナソニック(旧松下電器産業)グループを創業する。1946年、PHP研究所を創設。89年、94歳で没。YouTubeで松下幸之助の肉声講話をご視聴いただけます。

※本稿は、『THE21』2022年1月号に掲載された「松下幸之助の順境よし、逆境さらによし~千の悩みも結局は一つ」を一部編集したものです。

 

松下幸之助からの叱責を誇らしげに話す「弟子」たち

「あなた、シュンペーターの『経済発展の理論』、ご存じか?」

初対面の名刺交換が終わるや否や、自信満々な態度のその老人はこんな質問をぶつけてきた。

「私はね。店員養成所の出身でね。学校と言うとそこしか知らない。けれどね、店員養成所に入ったから、高校にも大学にも通っていなくても、私はシュンペーターを理解できるんですわ。あそこは学び方を教えてくれる学校でしたからな」

老人の名は山崎孝氏。松下電器産業(現パナソニック)の常務取締役を務めた人物だ。戦後日本を代表する経営者・松下幸之助の実像を探ろうと、私は幸之助の指導を直接受けた部下たちのヒアリングを始めた。今から25年前の話である。

山崎老人は1冊のノートを開いた。そこには、自身のキャリアの変遷と日本経済の景気動向を重ね合わせた精緻なグラフが描かれてあり、彼はイノベーションの本質を自身の変遷を題材に語ろうとし始めた。店員養成所とは教育熱心な幸之助が創業17年目(1934年)に設立した企業内学校のことである。

困り果てた私の顔を見て、老人は、ニヤリと笑って話をやめ、本題の松下幸之助との思い出を語り始めた。つまるところ、山崎老人はキャリア自慢をしたかったのではなく、幸之助の教育手法がいかに優れていたかその一端を伝えたかったのだ。

ヒアリングを始めてすぐ気づいたことだが、山崎老人に限らず、松下幸之助の直弟子たちは、誰もが幸之助に叱られた話を誇らしげに話す。そんな話の一つひとつが彼らの勲章であるのだ。

さて、その松下幸之助とは何者か。1964年、世界的なフォトジャーナリズム誌『ライフ』は日本特集を組んだ。今秋オリンピックが開催される日本とはどのような国か、そしてその日本を代表する企業と人物として、同誌は松下電器とその創業者・松下幸之助を特集した。

幸之助は、(1)最高の産業人、(2)最高所得者、(3)思想家、(4)雑誌発行者、(5)ベストセラー作家という5つの顔を持つ人物として紹介され、アメリカで言うならば、自動車王フォードとベストセラー作家アルジャーの2人を1人で兼ね備えたパイオニアだと評価された。

今で言うなら、財界の大谷翔平である。有利な条件どころか、ハンディだらけの幸之助がなぜ、それだけの成果をあげられたのかを、本連載は彼の残した数々の謎めいた言葉、そこに込められた考え方から探るものである。

というわけで本稿では、山崎老人が語る幸之助の言葉「千の悩みも結局は一つ」をご紹介する。

次のページ
「人間というのはいっぺんにそんなに悩むことはできひん」 >

THE21 購入

2024年4月号

THE21 2024年4月号

発売日:2024年03月06日
価格(税込):780円

関連記事

編集部のおすすめ

コロナ禍の今こそ松下幸之助に学ぶ、「逆境の乗り越え方」

THE21編集部
×