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イノベーションに共通するのは志? 再び「日本型経営」に注目すべき理由

2022年09月12日 公開

名和高司(一橋大学ビジネススクール客員教授)

 

SDGsを超えた「新SDGs」の時代へ

パーパスが注目を集めるもう1つの背景として、メガトレンドとしての「3つの危機」がある。1つ目は「気候変動」(サステナビリティ)だ。地球温暖化は危機的状況にあり、気候災害の被害は甚大化している。

続いて、「AI暴走」(デジタル)。ITは人間を豊かにするものと考えられていたはずだが、監視社会化が進むことで新たな人権問題が発生したり、AIが人の思惑を無視して暴走したりという事例が相次いでいる。

そして最後が「紛争・戦争」(グローバルズ)である。ロシアのウクライナ侵攻は言うまでもなく、世界各地で紛争が続いている。世界はすでに分断が進んでおり、私はその意味で「グローバルズ」と複数形を使っている。

サステナビリティ、デジタル、グローバルズのそれぞれの頭文字を取って、私はこれを「新SDGs」と名づけている。

2015年に国連サミットで採択された「SDGs」(持続可能な開発目標)は極めてわかりやすく非の打ちどころがない内容だが、そのゴールは2030年であり、あと8年しかない。

また、持続可能性(サステナビリティ)だけを考えても、企業としての競争優位は築けない。サステナビリティとはいわば、「存在資格」であり、未来へのエントリーチケットにすぎない。より先の未来を考えるのなら、この新SDGsを意識し、その中心にパーパスを埋め込むこと。それが、「存在価値」を持つ企業として選ばれるためには必要なことなのだ。

 

企業が直面する「3つのシフト」

現在の世界の変化をもう少しミクロの視点から見てみよう。具体的には、企業を取り巻く環境の構造的な変化だ。

企業には3つの市場がある。1つは顧客市場であり、これは説明するまでもないだろう。もう1つは人財市場。優秀な人財を確保できなければ企業活動は成り立たない。そして3つ目が金融市場であり、いくらカネ余りの時代とはいえ、カネがなくては企業は立ちいかなくなる。

この三つの市場すべてで今、大きな変容(シフト)が起きている。顧客市場で起きているのが「ライフ・シフト」だ。これは2016年に発刊されたロンドン・ビジネススクール教授のリンダ・グラットン教授らが発刊した『ライフ・シフト』(原題は『The 100-year Life』)にて知られるようになった言葉である。

「人生100年時代」の到来により、「太く短く」「今、ここ」という価値観が否定され、多くの人がより長いスパンで物事を考えるようになった。

具体的には「今だけでなく将来」「ここだけでなく世界全体」「私だけでなく我々」へのシフトである。いわゆるエシカルな消費(環境などに配慮した消費)が求められるのもそのためだ。

そして人財市場において起きているのが、「ワーク・シフト」だ。実は同じグラットン教授が2011年に『ワーク・シフト』という本を出しており、2025年の働き方を予測している。

実は私は『ライフ・シフト』よりもこの本に衝撃を受けたのだが、その内容とは、今後は優秀な人ほど組織を離れ、フリーランサーとして働くようになるというものだ。あるいは自分のやりたいことに応じて、次々と会社を移っていく。それが未来の働き方であるという。

そして実際にアメリカでは、この予測の通りのシフトが起きている。つまり、これから企業がミレニアル世代やZ世代といった若い世代の人材を確保したいと考えるならば、このワーク・シフトを考慮することが不可避だということだ。

そして最後に「マネー・シフト」だ。これはESGに代表される、「地球環境や社会問題について考慮しない企業には投資をしない」という流れを指す。

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