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日本経済はどう変わっていく? 2030年までに知りたいビジネス新常識

2022年10月11日 公開
2023年02月02日 更新

嶋田毅(グロービス経営大学院教授/グロービス出版局長)

 

システム思考の時代へ...さらに世界が複雑化する

システム思考とは、独立した事象に目を奪われずに、各要素間の相互依存性、相互関連性に着目し、全体像とその動きを捉える思考方法です。

この思考法では、部分だけを見るのではなく、システム全体の(ワンショットではない)長期的な挙動に着目します。世界が狭くなって相互依存性が高くなった時代に、システム思考の考え方は非常に重要です。

システム思考と関連が深い組織学習の分野の大家であるMITのピーター・センゲは、著書『最強組織の法則』(徳間書店)の中で、かつての冷戦時代にアメリカとソ連が傍目には無益な軍拡競争に走ったメカニズムを、説明しました。

2030年頃には、こうしたシステムはより複雑になっているでしょう。システム思考では、システムを「何かを達成するように一貫性を持って組織されている、相互につながっている一連の構成要素」と定義します。

重要なポイントは、(1)構成要素があること、(2)相互につながって直接的・間接的に影響を与えていること、(3)機能や目的があること、です。

システム思考は大切な思考法ですが、難しい思考法でもあります。まず、システムの要素の関係が線形ではなく、非線形であるという点があります。ちょっとした原因が大きな結果を招く可能性があるということです。

また、システムをどこで線引きするかも、実務的には大きな問題です。例えば経済というシステムは一国内で完結することは難しく、世界経済全体との関係を理解する必要があります。しかし、それは現実には極めて難しいため、どこかで線引きをしなくてはなりません。

ただ、それを適切に行うことは非常に難しく、結果として、思いがけないところから経済全体に大きな影響を与えるような事象が登場するのです。複雑なものを複雑に捉えるのではなく、複眼的、俯瞰的にシステムを眺めながらも、本質をしっかり考えることが大切です。

 

東京一極集中が解消される?

東京一極集中の解消が叫ばれて久しいものがあります。東京一極集中のメリットとしては、人的ネットワークを構築しやすくなる、あるいは知識や知恵が集積しやすくなることでビジネスを起こしやすくなるなどがあります。

一方で、家賃が高騰したり、待機児童の問題が生じたりと、住みにくさは増します。また、東京に人口が集中すると、その分、地方は人が減り、地域経済の担い手がいなくなるという問題も生じます。

ただ、この流れは2030年には収束している可能性もあります。コロナ禍で、オンライン会議などを活用すれば、オフィスに毎日来なくてもある程度仕事が回せることが分かったからです。

2030年には、そうしたツールがさらに発達しているはずなので、「全国どこにいても働ける」という状況は現実味があります。東京をはじめとした都心は、確かに便利な反面、人によっては息苦しさを感じる場所でもあります。

地方にいても仕事ができるのであれば、そちらの生活を志向する、というビジネスパーソンは多いのではないでしょうか。地方に住む親の介護といった、別の要請もあります。2022年の段階で、すでに本社を東京から地方に移した大企業なども存在しています。

また、単身赴任は止め、基本的に在宅ワークにする企業も出ています。こうした動きは加速するでしょう。

そこで問題となるのは、1つ目に、企業、特に東京に本社を置く企業が、本当にそうした条件下でビジネスを生産的なものにできるかということです。確かにオンライン会議ツールなどは便利ですが、マイクロソフトの調査などによると、リモートワークは身近な同僚と仕事をするのにはいい反面、他部署の人間とのコミュニケーションが阻害され、組織がサイロ化しやすいということが報告されています。

つまり、オンライン会議では、リアルのオフィスのような「他部署の人間とのちょっとした出会い」、あるいは「ちょっとした雑談」などが生まれにくいのです。

これは部署間の軋轢を増すきっかけになりますし、イノベーションを阻害する要因ともなります。こうした問題はITツールの進化で解決している可能性もありますが、企業としても、いかに組織的にこうした課題に取り組むかが問われるところとなるでしょう。

もう1つの課題は、単に人口が地方に回帰するだけでは、現在の地方の問題は解決しないということです。地方が元気になるためには、そこに産業が生まれる必要があります。

産業が生まれれば雇用も生じますから、自ずと若い人も残りやすくなります。そのためには、企業が率先して地方で新規事業を起こしたり、起業家が地方から登場したりすることが必要となります。

日本は、鉱物資源などには恵まれない一方で、豊かな文化資源や食料資源、観光資源などがあります。これらは日本人のみならず、十分に海外の人々にも受け入れられるものです。これらを活用できる企業や人材は、他者に対してアドバンテージを持てると言えるでしょう。

情報や人材をマッチングさせるサービスなどにも需要があるでしょう。民間企業だけで何とかなる問題ではないでしょうが、地方自治体やその首長などとも連携し、バランスのいい日本を作っていく努力が必要となってきます。

眼前にある課題にのみ意識を奪われるのではなく、多面的に社会に貢献する姿勢が評価されるのです。

 

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