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松井一郎氏「横山新市長には、恐れられる存在になってほしい」

2023年05月16日 公開

松井一郎(前大阪市長)

松井一郎

松井一郎氏は2023年4月6日に任期満了を迎え、大阪市長を退任した。それに伴って、政界からも引退した松井氏が、自身の政治家人生を振り返っていま思うこととは? また、後任の大阪市長・横山英幸氏に今後期待することも併せて話しを伺った。

<聞き手:Voice編集部 中西史也、写真:大島拓也>

※本稿は『Voice』2023年6月号より抜粋・編集のうえ、一部加筆したものです。

 

後任の大阪市長に求めること

――今年4月9日に実施された大阪府知事選と大阪市長選のダブル選挙は、それぞれ現職の吉村洋文氏、新人の横山英幸氏と、大阪維新の会の候補が制しました。松井さんの後任である横山新市長はどのような人物なのでしょうか。

【松井】彼のことは、大阪府議会議員になる前の大阪府庁の職員時代から知っています。信念は強く、ぶれない一方で、誰に対しても親切で物腰が柔らかく、ソフトな印象です。

どちらかと言えば、人当たりの良さも相まって吉村さんとタイプが似ているかもしれません。ただ、吉村さんが民間出身の弁護士だけに白黒をはっきりつけたい性格であるのに対して、横山さんはバランスを重視した政治家とも言えるでしょう。堅実な人物ですから、丁寧かつ安定した市政運営をしてくれるはずです。

――大阪市の行政のトップを担う横山市長に何を期待しますか。

【松井】今後は、政治家として「恐れられる」存在になってほしいですね。市長の任期4年のあいだにできることは限られており、スケジュールのなかで政策を決めて実行する力が求められます。政治家は周りから好かれること以上に、時に恐れられることも重要なのです。

――著書『政治家の喧嘩力』(PHP研究所)にも、政治家は周りから恐れられ、リスペクトされる存在にならなければならない、と書かれています。なぜ恐れられることが大切なのでしょうか。

【松井】たとえば大阪市長の立場で言えば、共に仕事をする大阪市の職員から「この人はごまかせない」と思われる必要があります。

大阪市は職員3万5000人(2022年4月時点)を超える大組織ですから、どうしても前例踏襲で物事を変えようとしない人もいます。市長が改革を進めたいと考えていても、職員がこれまでの方向性を継続させようとすることも少なくありません。

すると、市長の元に正確な情報が集まらず、政策決定にもネガティブな影響を及ぼしてしまいます。行政とのあいだに一定の緊張感を保つ意味でも、政治家は周りから恐れられるべきです。

――政策面では、横山市長に何を求めますか。

【松井】行財政改革に邁進してもらいたい。市長としての最重要課題の1つは、限られた財源のなかで大阪市政をいかにやりくりするかです。

大阪市では昨年8月に「大阪市DX戦略」の策定を掲げ、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しています。市民の皆さんの利便性を向上させると同時に、職員の業務を改善して働き方改革にもつなげる試みです。DXによって職員の仕事の負担を減らせるのですから、人員など行政のスリム化も進めていくべきでしょう。

――コロナ禍によってDXは日本中で進みましたが、動きが停滞している自治体も見受けられます。DXを仕組みとして整備していくべきではないでしょうか。

【松井】ええ。少子高齢化がますます進行し、2040年には、65歳以上の高齢者の人口がピークになる「2040年問題」が待ち受けています。働く現役世代の数は減っていくのは明らかで、いまのうちに効率的な市政運営の準備をしておかなくてはなりません。

我々は大阪府・市議会ともに、議員定数を削減してきました。職員についても、新規採用の段階で人数を絞るなど、中長期的なプランを想定して実行すべきでしょう。

――現在は大阪府市ともに維新が首長の座を握っていますが、2040年までにどのような状況になっているかはわかりません。政策方針が頻繁に変わらないためにも、制度的な整備が必要不可欠なはずです。

【松井】その点については、政策転換も含めて、選挙で首長を選ぶ住民の民意だと思います。いまの大阪では維新の改革が評価されているということであり、民主主義のルールの下で政治家はつねに選挙の結果を厳粛に受け止めなければいけません。

 

大阪都構想、三度目の住民投票はあるか

――2011年以降、大阪府市の行政は「維新体制」が続いています。松井さんは大阪府知事、大阪市長、大阪維新の会代表として改革を牽引されてきました。維新体制による最大の成果は何でしょうか。

【松井】自分の功績を話すのは憚られますが、維新としては、住民投票を通じて住民の皆さんの政治に対する関心を高めたことだと自負しています。

大阪都構想(大阪市を再編し、代わりに四つの特別区を新設する改革)の賛否を問う2015年、20年の住民投票は残念ながら否決されてしまいましたが、大阪市民は大阪市を特別区につくり変えるか否かを侃侃諤諤と議論し、悩み抜いて票を投じてくれたはずです。

投票率は1回目が66.8%、2回目が62.4%と、いずれも60%を超えています。昨年7月の参議院選挙の投票率が52.0%だったことを考えると、大阪市民の都構想への関心の高さは顕著です。賛成、反対の立場は別として、二度の住民投票を通して、大阪の民主主義の成熟度が高まったことは間違いありません。

――では逆に、政治家としてやり残したことはありますか。

【松井】僕自身がやり残したことはないですね。大阪府知事・市長として公約に掲げた政策はほとんどテーブルの上には載せているので。それらを実務的にどう進めていくかは、新首長と行政の役割だと認識しています。

――大阪都構想の住民投票が可決に至らなかったのは、やり残したこととは言えないでしょうか。

【松井】我々の公約は、可否を問う住民投票を実施するところまでです。もちろん大阪都構想の実現をめざしてきましたが、最終的に決めるのは大阪市民。僕自身、住民投票を通じて、民主主義の根幹を成す選挙の重要性をあらためて実感しましたね。

――住民投票の三度目の実施はありうるとお考えですか。

【松井】大阪維新の会の代表は吉村さんですから、彼の判断によります。維新としては大阪都構想の旗自体は降ろしていませんが、当面はやらないでしょう。

ご案内のように、2011年以降の大阪府知事・市長はいずれも維新の政治家が担っており、両者の協力によって二重行政の弊害が緩和された「バーチャル大阪都」の状況にあります。住民投票に反対を投じた市民のなかには、維新体制を評価しているからこそ「いまのままでいいんじゃないか」と考える方も少なくなかったはずです。

今後もし、再び大阪府・市の対立による二重行政の弊害が出てきたならば、制度としての大阪都構想の価値がもう一度、見直されるかもしれません。

――統治機構の変革はやはり、一朝一夕には実現できないのですね。

【松井】戦前の東京府と東京市も、1943年に東條英機内閣で東京都に統合されるまで何十年も揉めていましたからね。大改革には国民の不安がつきものですから、実行するには、大きなエネルギーと政治家の覚悟が問われます。

 

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