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課題解決型人材を育てよ~DeNAが推進するプログラミング教育の真意

2015年03月23日 公開

南場智子(DeNA取締役ファウンダー)

 

橋を架けていたら間に合わない

 ――そうした新しい発想が、なぜ日本からは生まれないのでしょう。世界では先鋭的な企業、いわゆる「ニューエコノミー」が続々誕生しているのに、どうして日本では製造業を中心とした「オールドエコノミー」がガラパゴス化するばかりなのか。

 南場 問題はそこなのです。このような話をすると、日本の伝統的な企業の経営者の方々は、「僕たちと新興のIT企業のあいだには大きな川が流れているから、南場さんたちがそこに橋を架けなきゃいけないんだよ」とおっしゃるのですが、私からは「橋なんか架けていたら間に合いませんよ!」と返答するしかない。

 ――何が間に合わないのでしょうか。

 南場 製品やサービスの開発から、マーケティングの広め方まですべて間に合いません。シリコンバレーの競争相手は社長から受付担当者まで、社員全員が当たり前にIT素養を身に付けています。なのに、彼らと対等にビジネスをすべきわれわれの側が、「ITはわからないから、得意な人間に橋渡しをしてもらうまで待つ」という消極的な姿勢では、勝負になるはずがありません。

 だから私は、これからはあらゆる産業でIT素養を有する人材が必要不可欠だといいたいのです。

 ――南場さんのおっしゃるIT素養は、どんなものだと考えればいいのですか。

 南場 一言でIT素養といっても、エクセルやパワーポイントを使いこなすところから、本格的なプログラミングまで大きなレベルの幅があります。可能なら、社員全員がプログラミングをできるところまでいけるといいのですが、そのレベルの素養はそう容易く身に付けられません。でも、若い人には、ただインターネット上のサービスを利用するだけではなく、インターネットを使って何かサービスを生み出せるぐらいの素養を求めたいところです。あるいは、自分の手でアプリを作ることはできなくても、アプリが作られる過程や仕組みはわかっていてほしい。それだけでも、発想はずいぶん広がるからです。またIT素養のある人材が集まれば、組織内のコミュニケーションがとてもスムーズになります。

 

日本人に求​められる4つの力

 ――そうした人材養成のために、学校でのプログラミング教育が必要だと言われ始めています。日本でも2012年度からの新学習指導要領で、中学校の「技術・家庭」科目内の「プログラムによる計測・制御」を必修化しました。ただ、世界のなかでは遅れているとの指摘もあります。

 南場 ここ2~3年、プログラミング教育の必要性について議論が盛り上がっていますけれど、アメリカやイギリスはもちろんのこと、北欧、イスラエル、シンガポールあたりはずっと先に進んでいます。日本はまだまだこれからでしょう。それと、教育改革の必要性については、ITだけの話ではありません。日本の学校教育は、戦後の復興で世界の工場となるべく「間違えない達人」を大量に育ててきました。おかげで加工貿易立国として日本は成長を遂げたのですが、いまはもうそんな時代ではない。加工貿易は中国のほうが圧倒的に強いわけですし、先進国としての日本に求められているのは、もっと別の力ではないでしょうか。

 ――日本のどんな力が求められているのですか。

 南場 大きく分けて4つの力があると思います。1つは、日本の素晴らしさを世界に伝える力です。自分の情熱、パッションを伝えて他者に共感してもらう。日本人はお世辞にもうまいとはいえませんから、意識的に身に付けていくべき力です。

 もう1つは、クリエイティブな課題解決の能力。エネルギー、自然災害、人口構造の歪み、社会保障など、日本は他国に先駆けていくつもの大きな課題に直面しています。それらを解決していくには、高いレベルのクリエイティビティが不可欠です。

 あとは、海外のITベンチャーがさまざまな産業でイノベーションを生み出しているような、新しい付加価値を創っていく能力。発想、アイデアを生む力ですね。

 そして、そうした3つの力を引き出すためには、文化的な背景の違う人びとと共働(コラボレーション)する力が必要です。日本人だけで「閉じた」チームができることには、もう限界が来ています。これからは世界中のいろいろな仲間の力を借りて、協力してさまざまな課題に取り組んでいかなければならない。日本人が苦手としている働き方ではありますが、そこはもう自ら世界に対して切り拓いていくしかない。

 ――1つ目のパッションを伝える力というのは、具体的にはどんなことなのでしょう。

 南場 それに関しては面白いエピソードがあります。2009~13年に米国駐日大使を務められたジョン・ルース氏の奥さま、スージーさんのお話なのですが、彼女が「智子、私、びっくりしたのよ」と目を丸くして私にいいました。何があったのか聞いてみると、スージーさんがある日本人の家に行くと、小学3年生ぐらいの女の子がとても小さいフライパンやテーブルなどのミニチュア玩具を何千個も集めていた、というわけです。

 彼女は大いに感心して、「このコレクションのことを、学校でみんなに発表した?」と尋ねたそうです。女の子は「いいえ、誰にも話していません」。スージーさんは、「はぁ?」と首を傾げたそうです。女の子のお母さんが慌てて「違うのです。これは学校の宿題ではなくて、娘の個人的な趣味なんです」と説明しても、スージーさんは「いや、だから、これを学校でみんなに見せた?」と問い質す。お母さんは、「ですから、これは学校とは関係ないんです」というしかなくて、もう話がまったく噛み合わない(笑)。

 そのとき彼女が何に驚いたのかというと、要するに、「女の子があんなに素晴らしいミニチュアコレクションをもっているのに、どうして学校でそのことをプレゼンテーションしていないんだ!」というコンプレイン(不満)だったんですね。「これはもうサプライズ・オブ・ザ・マンス(今月いちばんの驚き)」とスージーさんが本気で驚いているのを見て、今度は私がその彼女のリアクションにびっくりしてしまいました。なぜかって、私は日本で生まれて育ちましたから、彼女の驚きが理解できないのです。

 ――アメリカでは子供が自分の趣味を学校でプレゼンして当然、ということですか。

 南場 北米の学校を中心に行なわれている教育科目の1つで、「ショー・アンド・テル」と呼ばれる授業があります。子供たちが先生から「あなたの最も大事なものを家から持ってきなさい」という課題が出され、各自が持参した思い出の写真やお気に入りの玩具などをクラスメイトに見せながら、どんなふうに大事なのかを語ってみせる。つまり、自分の感動をクラスのみんなと共有する訓練ですね。ほかにも、自分が最も好きな人の絵を描き、その人がなぜ好きなのかをクラスのみんなに伝える、といった授業を毎週のように行なっているのです。

 ――日本の学校では、そういったいわゆるプレゼンテーション力を涵養するような授業に多くの時間を割きません。せいぜい、会社に入って受講する研修で行なうぐらいでしょう。

 南場 この話を知ったとき、私はアメリカで働いている弊社の従業員200人に思いを巡らせました。先ほど申し上げたような教育を小学生のうちから受けてきたトップを頂くライバル他社と競争するのは、この上なく大変なことだ、と。パッションを伝える訓練を積んでいればいるほど、共感のパワーは高まります。たとえば誰かが、「こんな夢を達成していこうよ」「この問題はこう解決しよう」と言い出したとします。そのパッションをみんなで1つに纏めていく力が、われわれ日本人よりも恐ろしいほど上回っていると思わざるをえません。

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著者紹介

南場智子(なんば・ともこ)

DeNA取締役 ファウンダー

新潟県生まれ。1986年、津田塾大学卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。90年、ハーバード・ビジネス・スクールにてMBAを取得し、1996年、マッキンゼーでパートナー(役員)に就任。1999年に同社を退社して株式会社ディー・エヌ・エーを設立、代表取締役社長に就任。2011年6月より現職。今年1月に 横浜DeNAベイスターズ取締役オーナーに就任する。

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