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なでしこジャパン・宮間あや主将が語る「土壇場力」

2015年06月11日 公開

宮間あや(サッカー日本女子代表)

世界が称賛する日本女子サッカー主将のスポーツマンシップ

聞き手 上野直彦(スポーツライター)

FIFA女子ワールドカップ(W杯)カナダ2015が開幕し、サッカー日本女子代表・なでしこジャパンは、6月8日にバンクーバーで初戦スイスと激突した。日本のサッカー史上初めてディフェンディング・チャンピオンとして迎えたW杯。はたしてどのような結果になるか。チームの中心にいるのは宮間あや選手(岡山湯郷Belle)。左右両足から繰り出される芸術的なキックで、これまでチームのピンチを救ってきた。2012年からは主将(キャプテン)としてチームを率いる宮間選手に、現在の偽らざる心境を聞いてみた。

 

岡山は運命を感じる土地

 ――宮間選手にとって4度目となる今回のW杯への抱負を聞かせてください。

 宮間 ディフェンディング・チャンピオンとして、前回大会より強く優勝を意識しています。ただ、自分としてのスタイルは変えるつもりはありません。一戦一戦をチーム一丸となって戦い抜き、結果的に、このカナダ大会でもっとも多くの試合をする国になりたいです。

 2011年のドイツ大会を振り返ると、実力的に未成熟な部分があり、じつは誰も優勝できるとは思っていませんでした。「目標は何か」と聞かれたら、もちろん「優勝」でしたが、明確にトロフィーを掲げている姿を描けて大会に入ったわけではありません。銀メダルを獲得した2012年のロンドン五輪でも同様です。一歩ずつ必死に前進した結果でした。

 目の前の試合に勝つことが私にとってすべてです。あらかじめ立てた目標をめざしてトライすることも重要ですが、全力で目の前のことに取り組めば、予想とは違う夢が叶う場合もある、と身をもって実感しました。

 ――目標達成への道筋が独特ですね。たとえば本田圭佑選手(ACミラン)の場合、「何月何日までにこの夢を実現する」と具体的な目標設定をしたら、その日付からバックキャスティング(逆算)して「今日はこれをやる」といったアプローチを実践しています。宮間選手は真逆ですね。

 宮間 あえて目標を明確に描かないことで、その先の段階まで到達できるかなと思っています。私は、自分の行く先を決めたくありません。目標が変われば、生き方も柔軟に変えるべきだと思います。一日一日を積み重ねるなかで、小さな目標を一つずつ達成するやり方が自分には合っています。

 ――柔軟な生き方でいえば、千葉県出身の宮間選手が、岡山県美作市を本拠地とする岡山湯郷Belleでプレーするに至った経緯も興味深いです。

 宮間 高校1年生までNTVベレーザ(現「日テレ・ベレーザ」)でプレーし、2年生に上がるころに退団しました。ちょうどそのころ、U―19日本代表の世界大会に出場する予定でしたが、チームに所属していない私は選手登録ができない。そのとき、ベレーザ時代にお世話になった日本サッカー協会(JFA)の本田美登里さんが岡山湯郷の監督を任されることになり、本田さんから「籍だけ置いていいよ」といわれ、登録したのがきっかけです。高校を卒業するまでのあいだは、夏休みなどを利用して岡山に足を運び、旅館でアルバイトをしながら練習に参加していました。

 ――美作市は、JR岡山駅から車で2時間近くかかる場所に位置します。

 宮間 初めて訪れたときは、夜は真っ暗で、田舎町そのものでした(笑)。でも、さまざまな縁が重なり岡山に来て、10年以上離れずに暮らしている土地です。運命を感じながら暮らしています。

 ――サッカーも、地方ならではの環境だからこそ集中できている部分はありませんか。

 宮間 岡山という場所は、落ち着いてサッカーに打ち込める環境です。4年前に優勝したW杯後のなでしこフィーバーのころも、都市部のチームの選手に比べて多くの時間を練習に集中して割くことができました。

 湯郷は本当に素晴らしい町です。とくに温泉は魅力的で、選手は練習が終わると温泉に浸かって疲れを取っています。また、温泉施設を利用できる無料パスが提供されるなど、町全体でクラブを応援しようとする空気をひしひしと感じます。私たちがサッカーを続けられるのは、いつも温かい声を掛けてくれる地域の方たちのサポートがあってこそです。ぜひ県外からも多くの人に足を運んでほしい自慢の場所ですね。

 

女性チームならではの土壇場力

 ――女性が中心となる職場は年々増えています。宮間選手が、女性のチームでプレーする難しさを感じることはありますか。

 宮間 女性同士の集団や組織で行動を共にするうえで、チーム内での目標の共有が何よりも重要になります。全員が同じ環境で育ち、同じ志をもってチームに所属しているならともかく、それぞれの役割と立場があり、家庭環境や年齢も異なるなかで、みんなが同じ熱量で同じ目標をめざすのは容易ではありません。

 ――どのようにチーム内で調整するのですか。

 宮間 お互いが同じ目線に立つことです。チームを見渡すと、すごく仲がいい関係、少しは会話をする程度の関係、あるいは話さなくても気持ちはわかる関係といったように、それぞれ微妙に異なる関係性が共存します。その関係性を壊さずに同じ方向へ導くことが、私の役割だと思っています。そのためには私自身が、周りをよく観察しなくてはいけません。メンバーの表情や心境の変化を見逃さないように目を見張り、言葉では伝えきれない本音を探りつつ、適切な声掛けができるように意識しています。

 ――女性チームならではの面白さはありますか。

 宮間 限界まで自分を追い込んだ結果、発揮される土壇場力です。つねに限界を超えようとした結果、練習で一度も成功しなかったプレーが偶発的に試合でできることもある。それが女性特有の強みであり、女性のチームの面白さですね。

日の丸を身に着けるプライド

 ――日本代表ではキャプテンを務められています。その難しさ、学んだことを教えてください。

 宮間 キャプテンだからといって特別な意識をもたず、チームをまとめるというより、チームを守れる存在でありたいと思っています。キャプテンは、審判のジャッジに対してアピールをするとき、監督やスタッフとのコミュニケーションを取るとき、選手のなかで対外的に行動するときなど、率先して主張をしなくてはいけません。自分のためではなくて、チームを守るために動くことが求められます。

 また、問題が生じてチームの輪が乱れた際に、メンバーの意見を尊重しながら軌道修正するなど、それぞれがチームのなかで「らしく」いられる配慮を心掛けています。

 ――キャプテンとしての自覚が芽生えたきっかけは何でしたか。

 宮間 前主将の澤穂希選手から受けた言葉が大きかったです。

 澤選手は、「あや、みんなに好かれようなんて思ったらキャプテンは務まらないよ。大事なのは日本代表という誇りとメンバーを守ることだよ」とアドバイスをくれました。「キャプテンである自分が、日の丸が付いたユニフォームを身に着ける意味とプライドを、チームの誰よりも強く意識しないといけない」と気付けたのは、澤選手のおかげです。今後は、私も下の世代へ澤選手の教えを伝えていかなければという責任も感じます。

 ――まさに“なでしこ魂”の継承ですね。その意味では、クラブでも代表でもどんどん若い世代が加入しています。若手の選手から慕われる宮間選手は、チームではどういったコミュニケーションを取られていますか。

 宮間 自分が若い選手にとってすべてのお手本になろうとは思っていません。何もかも完璧にこなせば、「あの人は特別だから」ととっつきにくい印象を与えかねません。若い選手にはありのままでいてほしいので、自分もなるべくフラットな状態でメンバーと話すように心掛けています。そして自分のプレーや普段の行動を通して、プロのサッカー選手としてあるべき姿勢や考え方を示すようにしています。

 ――まさに率先垂範ですね。

 宮間 自分も一緒になって失敗をすることも大事です。失点に繋がるミスをしたり、好機を逃した試合を一緒に経験し、悔しい思いを共有することで、若い選手に成長するきっかけを掴んでほしいと思っています。私は負けず嫌いなので、試合に負けるのは絶対に嫌ですが……、人間は負けないと気付かないことがあるのは事実です。

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