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屋山太郎 民共共闘で消滅する民進党

2016年06月28日 公開
2017年08月21日 更新

屋山太郎(政治評論家)

 

いまの民進党では永久に連合に隷属する

 共産党は3年前、2013年の参院選で、比例で515万票(得票率9・7%)を集め、選挙区3、比例5の8議席を獲得した。今回、志位委員長が掲げた目標は「比例代表850万票、得票率15%以上」というものだ。共産党が躍進しつつあることは間違いないが、この党はどの党をかじって太りつつあるのか。

 すでに減ってしまったのは社民党で、参院2、衆院2議席まで落ちた。党内に宿命のような左右対立を抱えて自滅していったようなものだ。今回も吉田忠智党首が民進党との合併を提唱して、党内からも民進党からも拒絶された。あえて自滅の道を選択しているかのごとくである。共産党が新たな同志を増やそうとすれば、民進党の左派に狙いをつけるしかない。

 じつは民進党の弱点は、民主党時代から党内に左右対立を抱えていることだった。対立の主軸は「安保問題」で、最左翼は「平和は憲法9条があるだけで守れる」という信者たち。右派は自民党保守派と変わらない。前原誠司元代表、細野豪志元政調会長、長島昭久元防衛副大臣らは基本的に「新安保法」に賛成だったのではないか。

 党内に旧社民党系がいるかぎり、対立の種は消えるはずがなく、党の一体感は保たれない。旧社会党系が少数とはいえ党内に隠然たる勢力を保っていられるのは、彼らが連合から支持されているからだ。

 かつて前原代表は党の三原則の一つとして「連合から若干の距離を置く」と宣言して、大反発を招いた。以来、民主党内では連合批判はタブー視されている。連合は選挙のたびに紐付き候補を立て、今回は12人。こういう業界代表が党内に存在するのは日本政界の特質だ。イタリアにも産業別組合があるが、支持政党はそれぞれ別だ。いまの姿では民進党は永久に連合に隷属することになる。

 共産党も“共産党系組合”を抱えているが、組合に党が振り回されることはない。

 参院選の共産党の戦術は、選挙区は香川県と複数区、あとは比例区で稼ぐというもの。目標どおりに850万票を取れば、3年前の選挙区3、比例5の8議席は獲得するだろう。最近の地方選挙でも、共産党は宮城県議選では議席を4から8に倍増させた。

 それにしても選挙区で候補者を全部降ろす、という戦術は民進党に麻薬のように効いてくるだろう。これまでは負けるとわかっても、存在感を示すために立候補させるというのが共産党の基本だった。今回は選挙区を全部降ろすというのである。その戦術転換の動機は何なのか。それは政界再編の大きな流れを見ているからではないのか。

 民進党が政権政党並みに大きくなり、かつての民主党政権並みになると、かじることが困難になる。民進党は選挙区に2万~9万人の隠れ共産党員の票があると思うと、共産党と喧嘩したり、ことさら対立しなくなるのではないか。自民党議員が3万人の創価学会票に支えられているのと同じだ。

 他党や組合の支持は、個人票が少ない候補者ほど影響を与える。

 かつて民主党は連合の力を恐れて盾つかない結果、連合に牛耳られることになった。自民党と公明党はまったく思想の違う政党で、とくに国防問題をめぐる対立は絶えない。公明党の反論は、その路線では「婦人部がもたない」というのが常だ。婦人部は公明路線を左右するほど大きな勢力をもっているが、国防を考えるにあたって議論の中心は「恐ろしい」とか「周辺国はどう思うか」といった思惑でしかない。

 自民党のなかにも公明党と付き合って「防衛は大丈夫か」という声が多いが、公明批判はタブーなのである。

 民共連立路線は、共産党の側に損をする部分は何もない。自公政権の支持率はそこそこ高いから、残りを民共で分け取りするかたちになるはずだ。通常、政党が合併するとロケットのような発射熱を発するものだが、民進党は珍しく冷めている。

 

橋下徹と民進党保守派の合体論

 民進党が再起して政権を獲るにふさわしい政党になるきっかけは次の参院選だろう。自民党の議席が伸びて、民共の側がどのような配分になるかが、将来判断のポイントだ。共産党が議席を増やすか、得票数が目標の850万票に達すれば、志位戦術は大成功となる。

 この場合、民進党は現有議席を守った程度では大敗。55年体制を清算する決心で党を変革しなければ、社民党、民主党の轍を踏むだろう。連合こそ社会党、社民党を食い潰し、民主党をかじってきた元凶だと見定めるべきだ。

 民共共闘のキャッチフレーズは「新安保法の廃止」だが、共産党の自衛隊観は「自衛隊は違憲だが自衛戦争はする」という。こんないい加減な政党があるか。自衛隊と憲法について悩んだことはまったくないのだ。一方の民進党は民主党時代から安保政策に悩み抜き、党内で大喧嘩もやってきた。こういう場合、悩みがなく、教養のない側が強い。社会主義インターが民社党はOKだが、社会党はダメと峻拒してきた理由も、共産党と結ぶ社会党は共産陣営に属すると分類、断定してきたからだ。

 岡田代表は民共共存を続けても共産は政権党にはなれず、いずれは共産は民進の肥やしになると思っているのだろう。これに対して保守派は、共産と縁を切ったほうがまとまりのよい政党になり、いずれ政権を展望することになると一段、先を見ているようだ。

 国民の政治常識のなかから共産党無害論は出てこない。国際共産主義の歴史があり、社会の基本である自衛隊の格付けが不明だからだ。憲法改正時、全き非武装論を説く吉田茂首相に対して野坂参三氏(共産党議長)は「国防軍のない国家などありえない」と食い下がった。これが政治の常識であって、現実には自衛隊をもつに至った。共産党は「違憲の自衛隊」と片付けて、一方で新安保関連法廃止で野党を結集しようという。オリーブの木並みに政権を獲得し、新安保法を廃止したあと、さて「われわれは何をやるのか」と相談するのは、さながら“革命”の手法だ。オリーブの木に参画した政党は皆、それぞれの政策を掲げ、新政権は共通の政策から実行に着手した。

 共産党に担がれた民進党が政権党に成長するとはとうてい考えられない。かといって、この民共路線で民進党が衆参両院の選挙区で共産党から229万の票をもらうのが常習となれば、当選第一主義に陥るだろう。かつての社共共闘はいつの間にか共産党のみが生き残った。

 民共共闘が定着すれば民進党の消滅ということになるのは必至だ。当初、岡田代表は疑うことなく共産党の支持申し入れを喜んでいた。党内の反発に驚いていた風情だが、岡田氏には共産党恐怖症がないようだ。

 一般国民は55年体制時代の社共対立がどうなったか、民共体制が55年体制の再来だと悟っているだろう。かといって自民党がさらに太る余地はない。自民党ではない保守党、違った保守党を待望するだろう。橋下徹氏(前大阪市長)が起こした「維新」がブームとなったのは、維新を新しい保守と見たからだ。この待望論はまったく消滅していない。安倍晋三氏の総裁任期が終わるころには、橋下待望論が噴き出してくるのではないか。そのときは民進党の保守派との合体論が飛び出してくるはずだ。

著者紹介

屋山太郎(ややま・たろう)

政治評論家

1932年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、ローマ特派員、官邸クラブキャップ、ジュネーブ特派員、解説委員兼編集委員を歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社。2001年に正論大賞を受賞。最新刊に『それでも日本を救うのは安倍政権しかない』(PHP研究所)がある。

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