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小浜逸郎 老人運転は危険か



2016年12月22日 公開

小浜逸郎(批評家)

高齢者が起こす事故は本当に多いのか

主:じつは俺の異論というのは、いま話したような問題点だけじゃなくて、もっと根本的な疑問に関わっているんだ。昔と違っていまの時代は、ふつう想像している以上に元気な高齢者がわんさかいる。また、最近は車の性能がすごく進化しているから、歩いたり走ったりするのが困難な人でも精神さえしっかりしていればむしろ運転のほうが容易な場合が多い。そういう人たちの意思や行動の自由を拘束するのはあまりよくないと思う。身体障害者に対しては、条件さえ整えば健常者と同等に免許が取れるように制度が整備されてきたよね。精神は確かだけど体にガタがきている高齢者って、一種の身体障害者だと思うんだ。そうすると、たんに高齢者だからという理由で規制を厳しくするのは矛盾してないか。

客:そうはいっても、その意思や行動の自由が、生命を奪うことになりかねないんだぜ。これは「個人の自由」を尊重するか、「生命の大切さ」を尊重するかという問題で、俺は無条件に「生命の大切さ」を選ぶね。だって、当の高齢者ドライバー自身の命も懸かってるんだし、たとえドライバーが命も失わず怪我も負わないにしても、人を殺めてしまったら、加害者やその家族のほうも計り知れない有形無形の苦痛を背負うだろう。

主:待て待て。そう興奮するな。いま君の議論を聞いていて気付いたんだが、「個人の自由」か「生命の大切さ」かというような抽象的な二項選択問題に持って行く前に、もっと冷静に考えておくべきことがある。いままで俺たちは、高齢者ドライバーの引き起こす事故が増えていることを前提に議論してきたよな。でも、それって本当なのかね。

客:だって、現にこんな短期間に80歳以上のドライバーが次々に事故を起こしている事実が報道されているじゃないか。まさか君はそれを認めないわけじゃないだろう。

主:個々の事故報道を疑っているわけじゃないよ。だけど、「超高齢社会・日本」というイメージがわれわれほとんどの日本人の中に刷り込まれていて、それに絡んだ問題点を無意識のうちに拡大して捉えてしまう傾向が、もしかしたらありゃしないだろうか。昔からよくいうよな、「ニュースは作られる」って。これはニュースの発信者と受信者が同じ空気を醸成していて、いわばその意味では、両者は共犯者なわけだ。発信者は「87歳の高齢者ドライバーによる死亡事故がありました」と報道する。聞くほうも、「えっ、それはたいへんだ。そんな高齢者に運転させるのは間違いだ」と即座に感情的に反応してしまう。そこから「規制をもっと強化しろ」という結論までは簡単な一歩だ。

客:しかしごく自然に考えて、年を取れば取るほど生理的に衰えてくるから、運転の危険度も増すことは否定できないだろう。君だってそれは認めていたじゃないか。

主:もちろん認めたよ。でもそれを認めることと、高齢者への運転規制を強化しろという結論を認めることとのあいだには、まだ考える余地があるといっているんだ。俺が何でこんなことにこだわるかというと、俺たちはマスメディアの流すウソ情報にさんざん騙されてきたからだ。たとえば旧帝国軍隊は韓国女性をいわゆる「従軍慰安婦」として強制連行しただとか、30万人に上るいわゆる「南京大虐殺」があっただとか、アメリカは自由・平等・民主主義といういわゆる「普遍的価値」のために戦ってきただとか、ヨーロッパを1つにするEUの理想は素晴らしいだとか、自由貿易を促進するTPPは参加国の経済を飛躍的に発展させるだとか、いわゆる「国の借金」が国民1人当たり800万円だから、財政を健全化させるために消費増税はやむをえないだとか、トランプ候補はとんでもない差別主義者で暴言王だとか……。だけど、これらはよく調べてみると全部デタラメだということがいまでははっきりしている。

客:わかった、わかった。それが君の持論だということは俺も君の本(*注1)やブログ(*注2)を読んだから認めるよ。だけど高齢者ドライバーがもたらす危険性については、事実が証明しているんじゃないか。少し疑り深くなりすぎてやしないか。

主:そうかもしれない。じゃ、ちょうどパソコンの前に座っているから、はたして高齢者ドライバーが起こす事故が、他の世代に比べて多いかどうか調べてみようじゃないか。

客:もとより異存はないよ。

(主、しばらくパソコンを操作する)

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著者紹介

小浜逸郎(こはま・いつお)

批評家

1947年、横浜市生まれ。横浜国立大学工学部卒業。 2001年より連続講座「人間学アカデミー」を主宰。家族論、教育論、思想、哲学など幅広く批評活動を展開。現在、批評家。国士舘大学客員教授。著書に、『日本の七大思想家』(幻冬舎新書)、『デタラメが世界を動かしている』『13人の誤解された思想家』(以上、PHP研究所)など多数。

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