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登山で死なないための教訓

2017年05月08日 公開
2022年12月28日 更新

野口健(アルピニスト/富士山レンジャー名誉隊長)

引率者のスキルアップをいかに図るか

加えて一律の登山禁止は、他の高校生のチャレンジの芽を摘んでしまうことになります。

僕は高校時代、立川女子高等学校の山岳部がヒマラヤの未踏峰を登頂したニュースを聞いて驚き、勇気をもらいました。立川女子山岳部の指導はスパルタ式で、40㎏の重さを背負わせて非常階段を登るなど、女子高生があらゆる最悪の事態を想定した訓練を行なっていました。負荷の強いトレーニングを毎日のように積み重ねて万全の準備をして高峰に挑み、見事に成果を上げたわけです。こうした努力を無に帰そうとする教育委員会の考えはあまりに安易です。

もちろん、どれほど気を付けても起きてしまう事故はあります。しかし、今回は明らかにそうではない。立川女子山岳部のように「最悪の事態」を念頭に置いていれば、回避できた事故です。その意味で「引率者のスキルアップをいかに図るか」こそ本来、取り組むべき課題であると思います。

著者紹介

野口 健(のぐち・けん)

アルピニスト

1973年、米国ボストン生まれ。亜細亜大学卒業。植村直己の著書に感銘を受け、登山を始める。16歳にしてモンブランへの登頂を果たす。99年にエベレスト(ネパール側)登頂に成功し、7大陸最高峰最年少登頂記録を25歳で樹立。以降、エベレストや富士山に散乱するごみ問題に着目して清掃登山を開始。2007年、エベレストをチベット側から登頂に成功。近著に『ヒマラヤに捧ぐ』(集英社インターナショナル)、『世界遺産にされて富士山は泣いている』(PHP新書)など。

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