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清水泰 東京都受動喫煙防止条例の暴走

2017年12月27日 公開
2017年12月27日 更新

清水泰(フリーライター)

飲食店原則禁煙の衝撃

 もう1つの大きな動きは、9月8日に小池百合子都知事が「東京都受動喫煙防止条例(仮称)」についての基本的な方針を発表したことである。その発表に合わせて東京都は、東京都受動喫煙防止条例(仮称)の基本的な考え方を公表し、同日から10月6日までパブリックコメントを募集することを明らかにした。

 屋内は全面的に喫煙を禁止し、施設や利用者に応じて規制対象を3つに分類した。施行開始は2019年9~11月に日本で開催されるラグビーワールドカップ前までを予定している。

 一般的な紙巻たばこや葉巻に加え、加熱式(電子)たばこも規制対象。対象施設は、①未成年者や患者が利用する医療施設・学校などは敷地内禁煙、②不特定多数が利用する官公庁や大学は屋内禁煙、③ホテル・旅館・職場など事業所や飲食店、娯楽施設は原則屋内禁煙となった。

 ③の施設では、個室型の喫煙専用室であれば設置でき、その室内は喫煙が可能。飲食店では面積30㎡以下のバーやスナックなどは、従業員を使用しない店、全従業員が喫煙可に同意している店、未成年を立ち入らせない店については、利用者が選択可能な提示を義務付けたうえで、喫煙を例外的に可能としている。違反した場合は、喫煙者本人だけでなく、事業者に対しても勧告や命令、5万円以下の過料(罰金)を科す方針だという。

 その後、発表されたパブリックコメントの募集結果は、条例案に賛成の意見が6000件余りだったのに対し、一部反対を含め、反対が8000件以上と賛成を上回った。加熱式たばこを「規制対象外に」との指摘も寄せられた。

 面積30㎡以上の飲食店を「原則屋内禁煙」とする内容であり、これを死活問題として受け止めたのが、面積の小さい飲食店の店主たちである。資金力に乏しく面積の小さい店舗では喫煙専用室を設けることができない。

 そこで彼らは、喫煙ルールの店頭表示や時間帯分煙、エリア分煙といった各種対策を施すことで、分煙時代を何とか生き抜いてきた。国内の飲食店がすべて分煙に対応できる環境にあるわけではなく、狭いエリアに飲食店が密集する東京などの大都市圏は、とくに喫煙専用室の設置が困難な地域といえる。

 組合加盟店約1万店の大半が10坪から30坪程度の小規模店で、月の売り上げは100万円前後。バーやスナック、居酒屋など酒類を扱う業種が多く、店主1人か、家族2、3人で営む零細事業者だという東京都飲食業生活衛生同業組合。

 常務理事の宇都野知之氏は「東京都と協力しながら喫煙ルールを店頭表示するためのステッカーを開発したり、貼付率の向上にも取り組んで成果を上げてきました。いまは60%近いと思います。今年度も都の予算などを使って新しいステッカーを作成しましたが、この条例が成立すれば、こうした長年の取り組みもすべてムダになってしまいます。加熱式たばこを規制対象にしたのも理解できません。嫌煙家の人たちが頼りにするWHO(世界保健機関)も、加熱式たばこについては明確な見解を出せていないのです。最近では、店内全面禁煙にしていたけれど、加熱式たばこをOKに変えるお店も出てきていますから」と憤る。

 しかも「設備投資費用とスペースの問題で喫煙専用室の設置は不可能ですから、全面禁煙にせざるをえません。すでに喫煙室のある大手チェーン店に流れたり、県境の飲食店なら隣接県に流出する恐れもあります。とくに酒類を扱う店舗は、たばこを吸う方から敬遠される可能性があるので、売り上げが大幅に減ると考えられます。加盟店店主も高齢化しており、いま以上にお客さまが減れば経営が成り立たず、廃業するしかない。死活問題なんです。零細企業いじめはやめて、われわれを切り捨てないでほしい、というのが正直な思いです。都のパブリックコメントにも意見を寄せるよう、組合員に呼び掛けました」(宇都野氏)。

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