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「いまの形の銀行はなくなる」ビル・ゲイツ氏の予言の意味とは

2018年06月14日 公開

浪川攻(経済ジャーナリスト)

写真:毎日新聞経済プレミア編集部

 

戦後金融史上最大級のヤマ場

メタモルフォーゼ(変態)という言葉がある。

同じ生き物でありながら、蛹が蝶へと脱皮するように、外見上、劇的な変化を遂げることを指す。変容とも訳される。昆虫学の素養がないので迂闊なことはいえないが、想像するに、生き抜くための必要なプロセスにちがいない。

わが国の銀行業界でいま、このメタモルフォーゼのような局面が訪れている。70余年の戦後金融史のなかで最大級のヤマ場と言って過言ではない。生き抜くために自身のあり方を劇的に変えないと、厳しい環境のなかで淘汰されていくしかないという、過酷な生存競争の時代である。

このような事態が訪れることを、いち早く予言した人物がいる。マイクロソフトの創業者、ビル・ゲイツ氏である。

彼は1994年、こう語っている。

「銀行機能は必要だが、いまの形の銀行は消えてなくなる」

つまり、銀行が果たすべき社会的な役割は変わらないものの、その担い手である銀行がいまのような形であり続けることはない、という予言だった。

この予言が意味する帰結は、2つしか考えられない。1つは、いまの形のまま消えていくことであり、もうひとつは、形を変えて生きていくことである。この予言から20年超が経過して、この2つのルートの選択を迫られるようになったのが、わが国の銀行業である。

ゲイツ氏が唱えた予言の根本にあったのは、デジタライゼーション(デジタル革命)の展望にほかならない。デジタル・テクノロジーの劇的な進展が金融のあり方を変え、あるいは、旧来型とはまったく異なる金融形態を生み出してくるというビジョンである。

デジタル・テクノロジーは、オールド・エコノミーよりもはるかに軽コストの世界を導き出す。金融の担い手も同様に、コスト構造が劇的に軽量化されていくために、旧来型は競争力を失っていかざるをえない。

ゲイツ氏の予言を訳すと、こういう話になるのだが、当時のアメリカで、現在、わが国の銀行業界が直面している経営環境まで見通されていたというわけではない。予言の軸であったのはあくまでも、デジタライゼーションである。

そこで、わが国固有の問題に目を向けたい。まず、指摘できるのは急速に進展する少子高齢化と人口減少である。この社会現象は地方ほど歴然としてきており、2014年には、いわゆる「増田レポート」で消滅可能性都市が問題提起され、大きな話題となったのは記憶に新しい。

この社会構造の変化のなかで、全国の企業数(事業所数)も減少し始めている。その切実さが肌で感じるほどになっていないのは、1つには労働人口の減少が起きているからである。

ところが、少なくとも、これらの問題は銀行業にはヒタヒタと逆風になり始めている。資金需要の低迷である。マクロ的に捉えるかぎり、企業数の減少は企業による資金需要を弱める。実際、オーナー企業が大半を占める中堅・中小企業の領域では、廃業の動きが広がっている。

そのなかで、銀行などは事業承継、M&A(合併・買収)などをメインビジネスに据えているが、これらは一時的なビジネスになっても企業数の増大をもたらすわけではない。多くの場合、企業数減少を加速している。

資金需要の低迷には、企業が拡大再生産に踏み切らず、設備投資を手控えてきたことも影響を及ぼしている。いわゆる、長期化したデフレ経済の下で慎重な経営が定着しているわけである。

(本記事は、『Voice』2018年7月号、浪川攻氏の「生き残る銀行、消える銀行」を一部抜粋、編集したものです)

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著者紹介

浪川攻(なみかわ・おさむ)

経済ジャーナリスト

1955年、東京都生まれ。上智大学卒業後、電機メーカー勤務を経て記者となる。金融専門誌、証券業界紙を経験し、株式会社きんざいに入社。「週刊金融財政事情」編集部デスクを務める。その後、ペンネームで金融分野を中心に取材・執筆。東洋経済新報社の契約記者などを経て、フリーとなる。著書に『金融自壊‐歴史は繰り返すのか』『前川春雄「奴雁」の哲学』(以上、東洋経済新報社)など。新著『銀行員はどう生きるか』(講談社現代新書)が話題を集めている。

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