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米朝会談の勝者はどちら?紛争解決論から見るトランプ・金正恩交渉

2018年07月10日 公開

篠田英朗(東京外国語大学教授)

 米朝にとっての「Win」とは何か

「Win-Win」を求める交渉では、「相容れない目的」をつくっている利益の相克を分析したうえで、それでも当事者が共有している利益の部分を見つけて確認し、さらにその共有利益を拡大させるためのことを話し合う。

6月12日の米朝会談に当たっては、「非核化」という基礎的な概念は合意されたが、「CVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)」という文言が合意対象にならなかった。

それは「CVID」の明記が、一方的な米国側の「Win」になるのではないかという懸念を北朝鮮側が払拭できなかった、ということを物語る。

また、「安全の保証」という文言が挿入され、「朝鮮半島の平和体制」の確立をめざすことが合意対象となったが、朝鮮戦争終結や制裁解除を含めて、実質的な「体制保証」につながる具体的な措置については合意対象にならなかった。

それは実質的措置を伴う「体制保証」の明記が、一方的な北朝鮮側の「Win」になるのではないかとの懸念を、米国側が払拭できなかった、ということを物語る。

しかし両者は、「非核化」と「朝鮮半島の平和体制」が双方の共通の利益であることを確認し、その相互理解のもとに、今後さらに具体的な措置を話し合う作業を進めていくことについて合意した。「Win-Win」の結論は出なかったが、基本的な共通の利益を見出し、それがさらに発展していく可能性は認め合った。

今後の交渉は、この基本的な枠組みに沿って、プロセスを管理しながら、進められていくことになる。米韓合同軍事演習の中止や、在韓米軍撤退の可能性の示唆は、理論的には「非核化」の報酬として提示されたものではない。ただし、それを促進する環境整備の手段として、言及された。

6月12日の米朝会談については、具体的な合意事項がなかった、米国が北朝鮮側に譲歩しすぎたように見える、日本が期待した内容が盛り込まれていなかった、などの論評が相次いだ。

たしかに、今後の交渉の行方次第では、そのような評価で最終判断がなされる可能性はそうとうに残っている。

しかし、第1回の会談としてなすべきこと、つまり今後の交渉の基盤となる基本的な共通利益の確認と、その発展可能性の確認がなされたとすれば、第1回の会談としては、決して失敗したものではなかったと評価するべきだろう。

(本稿は『Voice』2018年8月号、篠田英朗氏の「米朝会談の勝者はどちらか」を一部抜粋、編集したものです)

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著者紹介

篠田英朗(しのだ・ひであき)

東京外国語大学教授

1968年、神奈川県生まれ。ロンドン大学大学院修了(国際関係学Ph.D.)。ケンブリッジ大学、コロンビア大学客員研究員を歴任。広島大学平和科学研究センター准教授などを経て、現職。著書に『「国家主権」という思想』(勁草書房、2012年、サントリー学芸賞)、『集団的自衛権の思想史』(風行社、2016年、読売・吉野作造賞)、『ほんとうの憲法』(ちくま新書、2017年)など多数。

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