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総理の外交スピーチライターが見る、安倍政権の使命

2018年09月08日 公開

谷口智彦(内閣官房参与)

写真:遠藤宏

 

『何者』で描かれた政権発足前の空気

今年8月、『安倍晋三の真実』(悟空出版)という本を上梓しました。ちょうど9月20日に自民党の総裁選が控えています。

私は安倍内閣の参与として、安倍総理の命を受け働きながら、安倍晋三という政治家についてあれこれ観察してきました。人物について、政策について、観察をまとめたのがこの本です。

何をして総理に仕えてきたか明らかにせざるをえませんから、外交政策スピーチの起案をしてきたことを打ち明けています。そんな立場の人間として、私は安倍総裁三選を願います。たんに勝つだけでなく、断固圧倒的に勝ってほしい。

政権というもの、株式会社と違って、現政権を否定する人へとトップが交代したら、その時点で一度「自己資本」がご破算になる性質のものだからです。国も企業も、風雪に耐える資本の蓄積が必要です。

煉瓦を積むようにして堅牢な自己資本を築かないといけませんが、いまの日本には、安倍総理が積んだ煉瓦を崩し、一から新しい政治・外交・経済政策をやり直す余裕はありません。

たとえば日銀の金融政策には、安倍総理、麻生太郎財務大臣、黒田東彦日銀総裁の緊密な関係により、ある程度の見通しがついています。これなどにも大きな疑問符が付き、外国投資家は一度手仕舞いするでしょう。

安倍政権発足直前から市場が反応し始めたことも勘定に入れると、アベノミクスはかれこれ6年続き、2012年12月から始まった今回の景気回復は、期間にして戦後2番目の「いざなぎ景気」より長続きしています。

それなのに企業が倹約モードから抜け切らない。企業は用途不詳の現預金を積み上げ続け、2012年度190兆円だった現預金残高は、16年度229兆円です。日本企業は全体として、何かを恐れてキャッシュを溜め込み続けている。何を恐れているかといったら、「未来」の不確かさでしょう。

企業が本格的に現預金を使って前向きな投資をしたり、家計でいえば子育て中の若い夫婦が新しい家を買ったり、若者が将来の伴侶を見つけて結婚し、子どもをつくってみようと思うには、中長期的な見通しが必要です。

戦後日本の若者にとって「未来」という二文字は、明るい希望の象徴でした。ところがいまは未来=不安、あるいは未来=不確かです。

少子高齢化により高齢者に対する社会保障の負担が増えていくため、将来に希望を抱けない若い世代は悲観せざるをえない。これではお金を使うことはできません。

直木賞を受賞した朝井リョウさんの小説『何者』(新潮社)には、現代を生きる若者の葛藤がリアルに描かれています。大学4年生の主人公たちは、就職活動に対する不安から疑心暗鬼に陥り、友情にも亀裂が入ってしまう。

この本は第二次安倍政権発足直前の2012年11月に発刊されましたが、まさに日本の、あのころの空気を象徴しています。当時の大学生にとって社会に出ることは、まるで暴風雨のなかに飛び込んでいくようなことだったのではないでしょうか。

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著者紹介

谷口智彦(たにぐち・ともひこ)

内閣官房参与

1957年、香川県生まれ、東京大学法学部卒業。日本朝鮮研究所(のちの現代コリア研究所)などを経て、84年、『日経ビジネス』誌編集部(日経BP社)に入る。同誌で記者、主任編集委員などを務めるかたわら、米プリンストン大学フルブライト客員研究員などを歴任。2005年、外務省に入省し、14年4月より現職。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。主な著書に、『通貨燃ゆ』(日経ビジネス人文庫)、『明日を拓く現代史』(ウェッジ)など。

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