ホーム » Voice » 政治・外交 » トランプは第二のヒトラー? ハーバード大学教授が語る

トランプは第二のヒトラー? ハーバード大学教授が語る

2018年09月12日 公開

スティーブン・レビツキー(ハーバード大学政治学教授)、大野和基(国際ジャーナリスト)

レビツキー教授(左)にインタビューをする大野氏

――(大野) 現在、ポピュリズムの蔓延によって、民主主義が危機に瀕しているといわれています。レビツキー教授が上梓されたHow Democracies Die(共著、邦訳『民主主義の死に方』9月27日に新潮社より刊行予定)はアメリカで大いに話題になりましたが、現状をどう捉えていらっしゃいますか。

レビツキー 民主主義が脅威にさらされている可能性はあるでしょう。ただ、「世界は民主主義のグローバルなリセッション(後退)に直面している」と主張する学者もいますが、いささか大げさに聞こえます。

アメリカの国際NGO団体フリーダムハウスによると、民主主義国家は1970から2000年代初頭まで一貫して増加し、2000年代半ば以降は横ばい傾向が続いている。

公正で競争的な選挙が行なわれているか否かをみる「選挙民主主義」から脱落したベネズエラやトルコのような国がある一方で、スリランカやマレーシアでは民主化が進んでいます。

とはいえ、将来的に民主主義国家の数が減少しないとは限りません。アメリカの西欧における影響力が過去10年間で劇的に弱まった一方、中国とロシアの影響力は拡大しました。

グローバルな勢力均衡がシフトしているのです。これからの世界は、リベラルな民主主義を必ずしも支持しない方向に揺れていくでしょう。

アメリカでは、ドナルド・トランプという民主的かどうか疑わしい大統領が誕生しました。トランプ大統領が民主主義から乖離した外交政策を標榜し、世界中の独裁者を応援していることは、グローバル民主主義の大義にはそぐわない。

民主主義の後退はまだそれほど顕在化していないものの、「storm clouds on the horizon(その地平線上に嵐雲が見えている)」といった不吉な徴候があります。

――トランプをアドルフ・ヒトラーに喩える識者もいますね。敵をつくって徹底的に攻撃したヒトラーのように、トランプも「メディアは嘘をついている」と揶揄しています。この2人をどのように比べますか。

レビツキー トランプをヒトラーに喩えるのは、やや誇張だと思います。トランプはヒトラーと違って、グローバルな支配を追求するような長期的プロジェクトをもっていません。

彼の目的はアメリカの国内問題に限定されている。現在のアメリカがファシズムやナチズムの手前にあるかのように語ることは、誤解を招きます。

しかし、トランプとヒトラーのいずれも独裁主義的な人物であるという点は共通しています。二人ともリベラル民主主義体制の下で権力を得ました。

ヒトラーは権力掌握後、あっという間にドイツの民主主義的制度を解体しました。トランプはアメリカの政治制度によって、ヒトラーよりもはるかに束縛されるでしょうが、両者とも嘘と真実を巧妙に操作し、民衆を間違った方向に導こうとする。

これは2人に限ったことではなく、世界中の独裁者の多くはこうした情報操作を行なっています。自らの権力基盤を固め、ライバルを打ち負かすために独裁者が使う常套手段です。トランプはヒトラーではありませんが、独裁主義的な性質をもっているといえます。

――ということは、トランプは民主主義を蝕んでいるということでしょうか。

レビツキー そうかもしれませんが、アメリカの民主主義的制度は依然として強固です。トランプ大統領就任後の1年半をみると、アメリカではこれまでどおり十分に民主主義体制が機能しており、トランプが現制度を踏みつぶそうとはしていないことがわかります。

しかし、トランプは2つの言動によって、民主主義的制度に対するアメリカ国民の信用を損ないました。

1つは、自らが当選した大統領選挙に対する発言です。トランプは大統領選候補者のときも大統領になってからも、「2016年の大統領選は不法移民が違法行為を行なった不正の選挙だった。一般投票でも自分が勝っていた」と繰り返し主張しました。

この発言によって、一定数のアメリカ人は、大統領選挙で違法に投票している人が何百万人もいると思い込んでいます。選挙が自由かつ公正であると国民が信用しなければ、いかなる民主主義も生き残ることはできません。

もう1つは、報道の自由です。トランプは、主流メディアは自分を引きずり下ろすべく共謀し、フェイク(嘘)・ニュースを流している、と声高に叫んでいます。

米ギャラップ社の2017年9月の調査において、「メディアは正しく、公正な報道をしている」と回答した共和党支持者は14%にすぎませんでした。

トランプはレトリックを駆使することによって、独裁主義的な動きに対する支持基盤をつくりました。これは民主主義がいずれ死ぬことを意味するわけではありませんが、より脆弱にするといえるでしょう。

(本稿は『Voice』2018年10月号、スティーブン・レビツキー氏の「第二のヒトラーは誕生するか」を一部抜粋、編集したものです)

癒しフェア2018 東京(8月)、大阪(3月)出店者大募集!!

著者紹介

大野和基(おおの・かずもと)

国際ジャーナリスト

1955年、兵庫県生まれ。大阪府立北野高校、東京外国語大学英文学科卒業。79~97年在米。コーネル大学で化学、ニューヨーク医科大学で基礎医学を学ぶ。その後、現地でジャーナリストとしての活動を開始。アメリカの最新事情に精通している。

関連記事

編集部のおすすめ

大野和基インタビュー・編『未来を読む』(PHP新書)で教養を磨く

大野和基(国際ジャーナリスト)

恐竜絶滅を引き起こした暗黒物質とは何か

リサ・ランドール(理論物理学者)、大野和基(国際ジャーナリスト)

テクノロジーが発達しても幸福感がないのはなぜか(ダニエル・コーエン)

ダニエル・コーエン(「ル・モンド」解説委員/パリ高等師範学校経済部長)、大野和基(国際ジャーナリスト)


WEB特別企画<PR>

アクセスランキング

WEB特別企画<PR>

  • Twitterでシェアする
癒しフェア2018 東京(8月)、大阪(3月)出店者大募集!!

21世紀のよりよい社会を実現するための提言誌として、
つねに新鮮な視点と確かなビジョンを提起する総合月刊誌です。