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消費増税は景気回復を妨げる ポール・クルーグマン氏が語る日本経済の未来

2019年01月07日 公開
2023年01月13日 更新

ポール・クルーグマン(プリンストン大学教授),大野和基〔取材・構成〕

ポール・クルーグマン

アメリカ企業は貿易戦争を嫌っている

――菅官房長官は、リーマン・ショック(金融危機)級の事態が起こらないと、消費増税はやめないと発言しました。しかし、世界経済の見通しはかなり不透明です。

その要因の一つが米中貿易戦争です。2018年12月の会談で、米トランプ大統領と中国の習近平主席は、追加関税の発動を90日間、猶予することで合意しました。これはあくまで一時的な「休戦」にすぎないという見方が強いですね。

【クルーグマン】 そう。米中貿易戦争は終わっていません。一時休止状態です。首脳会談後、トランプは「あらゆる素晴らしいことが起きた」と述べましたが、習近平は「いったい何の話か」と文句を言った。

二人の会談に実際に何が合意されたのか、明らかではありませんが、紛争の火種は残っています。

――アメリカはどこまでやるつもりなのですか。

【クルーグマン】 これは国家の問題というよりも、ドナルド・トランプという一人の人間の行為で起きている問題です。ですから、とても特異なことです。

貿易戦争の見通しを探るには、トランプの頭の中を見るしかない。アメリカには貿易戦争を要求している強力な利益団体はありません。アメリカ企業は貿易戦争を嫌っています。

――それは不思議な点ですね。

【クルーグマン】 アメリカのシステムでは、大統領が関税率を設定する完全な自由裁量をもっています。世界経済の行方について、米中貿易戦争は懸念材料の一つです。しかし、その結果がどうなるかは誰もわかりません。

――トランプには何か目論みというか、勝算はあるのでしょうか。

【クルーグマン】 望みなしでしょう。トランプはひっきりなしにツイートしますので、何を考えているかは読めます。彼の頭の中は、壊れた家具がごちゃまぜに詰まった屋根裏部屋だと思います。

トランプは、われわれの関税は国内の消費者ではなく、外国が払うものだと思っています。2国間の貿易収支がもっとも重要なものだと考えている。

しかも自分の政策が大きな成功を生み出していると勘違いしている。トランプ以外の人にはそう見えません。彼には情報も認識も不足している。現在の貿易戦争は現実に疎い人によってなされています。

――誰がこの貿易戦争で勝つのでしょうか。

【クルーグマン】 誰も勝ちません。すべての人にマイナスになります。理論上では、中国のほうがアメリカよりも脆い。

しかし、アメリカの政治システムは中国にはないpressure points(政治圧力の標的)があります。トランプは、(貿易戦争で不利益を被る)農業州の票について心配しないといけない。中国にはそのような問題はありません。

――日本への影響は?

【クルーグマン】 日本から輸入される鋼鉄などにはすでに関税がかけられていますが、アメリカの対中貿易赤字の多くは、じつは対日貿易赤字であると、憚りながら指摘しておきます。

その中身をみれば、中国のモノよりも日本のモノのほうがはるかに多いからです。もしトランプがそのことに気付けば、日本に対して激怒するかもしれません。

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