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日本は移民を受け入れるべきか?ポール・クルーグマン氏の経済成長論

2019年01月16日 公開

ポール・クルーグマン(取材・構成:大野和基)

日本に必要な移民はかなりの人数

――日本はこの20年、先進国のなかで生産性が伸びていないほぼ唯一の国です。これはデフレによるものでしょうか。あるいは生産年齢人口の減少、デジタル分野で日本が劣後したなど、構造的な要因によるものでしょうか。

【クルーグマン】 いったいどの時期のことを指して、日本の生産性が低いといっているのでしょうか。日本の生産性は申し分ないと思います。

過去25年間の経済的成果(economic performance)を見ると、就業者1人当たりの労働生産性の上昇率はアメリカに匹敵します。失われた何十年というのは、ずいぶん昔のことでしょう。

――2011~16年で比較すると、日本は米国や英国と同じ0.7%で、フランス(0.2%)、ドイツ(0.0%)より高いですね(年率平均)。

【クルーグマン】 ただ、日本はデモグラフィ(人口統計学、ここでは日本の少子高齢化を指している)で大きな問題を抱えています。

出生率が低く、高齢化が先進国でもっとも早い。生産年齢人口が年に1%以上縮小している。これは経済成長の低迷に直結します。

これに加えて移民に対する不寛容性です。テクノロジー上のダイナミズムの欠如など、他の要素は関係ありません。

――2018年12月の国会で、安倍政権は事実上の移民法(改正出入国管理法)を成立させました。生産年齢人口の減少を補うべく、これから5年で最大約35万人の外国人労働者を受け入れる予定です。

【クルーグマン】 労働人口の減少はどの国でも抱えている問題です。われわれの経済システムには、引退した(退職した)人を支えるべく、生産年齢の人たちに依存する規模の大きい社会保障プログラムがあります。

出生率の急激な低下は、このプログラムに問題を生じさせます。それに対処する1つの方法が移民を入れることですが、別の文化的な問題が生じます。はたして日本は、相当な移民を受け入れる準備ができているかどうか。

5年前であれば、アメリカの大きなアドバンテージは移民に対して寛容なことであり、日本はそうではないと言ったでしょう。しかしいまの私は、アメリカは「こういう国である」と考えていた国ではない、ということがわかった。そういう気持ちです。

――アメリカ国民にも移民に対して非寛容な部分があるということですか。

【クルーグマン】 われわれにも独自の偏見があることがわかりました。このようなことは、人間の本性においていささか普遍的なのかもしれません。

それにしても日本は極端なケースです。少なくとも、経済的な必要性のためには、日本は進んで移民を受け入れないといけないでしょう。

――移民は経済成長の特効薬になるでしょうか。

【クルーグマン】 少しは経済成長に役立ち、財政上の見通しにも役立つでしょう。社会が高齢化している場合、税金を払ってくれる若い労働年齢の移民を入れるのがいい。税移転システムを支える点からみると、若い移民を入れることは理想的です。

ただし、日本の経済成長を期待レベルに持って行くには、膨大な量の移民が必要です。年に1%以上生産年齢人口が減少している状態で、年1%の割合で移民を受け入れる準備ができているかということです。

――毎年7、8万人規模になります。

【クルーグマン】 アメリカでさえ、そのレベルの移民を今後受け入れるか、定かではない。トランプ政権の前でも、そのような大規模な移民受け入れについて考えられたことはありません。

――日本の多くの人は、ヨーロッパの現状を心配しています。欧州各国で起きている移民排斥運動をどう思いますか。

【クルーグマン】 人は、自分とは文化的に異なり、外観の違う人の存在にいらいらします。その度合いは国や地域によってさまざまですが、貧しい国から移民を受け入れることを嫌だと思う有権者はかなりいます。多くはたんなる偏見にすぎませんが、それが移民に対する考えに影響する要素になっています。

アメリカでは面白いことに、移民に対する敵意は地域ごとに変化があります。地方では移民に対して大きな敵意がありますが、ここニューヨークではほとんどありません。

中米からの移民を一度も目の当たりにしたことがない人は、移民は大きな脅威だと見なしますが、3分の1が移民であるニューヨークの真ん中にいる人は、移民はOKだと思っています。

これまで日本はあまり移民を受け入れたことがない国です。だから、日本人は移民に対して大きな恐怖を感じるのでしょう。

現在、西側諸国中に愛国主義的な右翼が台頭しています。白人の右翼と言えますが、日本人はもちろん白人ではありません。ただ、人種的な右翼はどの国でも問題です。

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