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ジム・ロジャーズ「日本政府の愚かな政策で、多額のお金が海外に流出した」

2019年04月17日 公開
2023年01月11日 更新

ジム・ロジャーズ(聞き手:大野和基)

貯蓄が投資に回らないのは日本政府の愚策

――品質、勤勉など、古くから日本人がもっていた価値観を大事にしなさい、というわけですね。残り一つ、日本人の強みとは何でしょうか。

【ロジャーズ】それは、貯蓄率の高さです。戦後、日本の賃金は極端に低かった。だからこそ日本人は、将来を案じて貯金に励みました。日本人の貯蓄率はいまでも非常に高い。

OECD(経済協力開発機構)の統計で日本人の貯蓄率が下がったと一時期話題になったが、それは人口の高齢化が原因であって、現役世代の日本人の貯蓄性向が変わったわけではないでしょう。

投資するためには貯蓄が必要であることは、経済の基本です。実体経済の原則では、貯蓄=投資になる。経済が成長するためには資本が必要で、その資本は投資によって増えるのです。

――しかし、日本では企業や個人もお金を貯め込むばかりで、それが投資に回りません。長らく新しい産業を成長させることができなくなっています。

【ロジャーズ】日本政府はなぜか、お金を貯めて投資をしようという人たちに損をさせるような政策を次々と打ち出しています。

結果、多くの日本人は金を日本から持ち出して、もっといいリターンが得られる国へもっていってしまいました。日本で投資を続けても、何の利息も付かないからです。

日本政府は愚策ばかりを弄して貯蓄と投資に励む富裕層から見放され、自国の経済を破壊しているようにしかみえません。世界の資産が西欧諸国からアジアに移っているいま、日本だけがアジアの中でぽつんと取り残されているように思えて仕方ないのです。

 

エンジニア育成にもっと国費を投じるべき

――では、もしあなたが日本の総理大臣になったら、どうするでしょうか。

【ロジャーズ】真っ先に着手するのは次の三つ、歳出の大幅カット、貿易の活発化、移民の受け入れです。

私なら日本の歳出を斧で、いやチェーンソーで、思い切り削減するでしょう。

その上で貿易の活発化、つまり関税を引き下げ、国境をさらに開放して、自由貿易の流れを促進します。日本は戦後、世界各国との貿易によって経済復興を遂げた「貿易立国」なのですから、保護主義に走っても何もいいことはありません。

そして、少子高齢化の日本を救うには移民を受け入れる以外に方法はありません。ただ、受け入れ方には慎重を期する必要があります。

一気に多くの移民を受け入れないよう、コントロールしなければならない。ドイツやシンガポールのように。移民を急に受け入れると国民の反感を買うし、ただでさえ日本人は外国人を嫌う傾向が強いからです。

さらに、もう一点付け加えるとすれば、日本は、エンジニア育成にもっと国費を投じる必要があります。

現在中国では、日本の15倍ほどの人数のエンジニアを輩出しており、それが国力の源泉になっています。あなたも百度(バイドゥ)、アリババ、テンセント、華為(ファーウェイ)の四社の名前を聞いたことはあるでしょう。

――日本市場にも積極的に進出しています。そればかりか、優秀な日本人の若者をこぞって採用しようとしています。

【ロジャーズ】それらの企業には、優れたエンジニアがいるからこそ成功しているのです。

中国でエンジニアになると、将来の成功は保証されたようなもの。だから才能ある若者はエンジニアをめざします。そして才能あふれるエンジニアが輩出されるという、好循環が生まれている。

アメリカでは、いまだに弁護士や医者をめざす傾向が強い。そのほうが、収入がいいと皆思い込んでいるからです。だから、たとえエンジニアに向いていても弁護士や医者を志すことになる。

肝心なのは「エンジニアで成功すると財を成せる」と若者たちに知らしめることです。そのために、教育が必要になる。

教育は人びとの思想をコントロールするほどの力をもつ場合がありますが、「エンジニアで成功すると財を成せる」というのは、決して間違った思想ではありません。

だからなおさら、子供が小さいうちから、エンジニアが将来有望な仕事であるということを教えていかなければならないのです。

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