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「野党再生」のヒントは維新の会にある

2019年06月24日 公開
2019年06月24日 更新

松井孝治(慶應義塾大学総合政策学部教授)

穏やかな包摂と持続的な成長を訴えよ

衆参ダブル選挙も取り沙汰されている昨今、安倍首相は選挙を意識してか、「民主党政権の悪夢」という言葉を頻用する。

しかし、Z世代(1990年代後半から2000年生まれの世代)と呼ばれる人たちはそもそも、民主党政権時代のことをよく知らないだろう。

彼らの主軸は当時小学生だから、「民主党政権時代は、就職がひどかったらしいね」と語り継がれているだけで、じつは民主党政権について悪夢の実感があるわけではない。

世代交代もあり、当時の記憶は徐々に上書きされていくから、「民主党政権の悪夢」が通用するのも、本来なら安倍政権限りのような気がする。

それなのに野党の側は、国会でプラカードを掲げて、自分たちから国民に悪夢を思い出させるようなことをしている。

若い世代の記憶から消えつつある「民主党政権の悪夢」を呼び覚ましてしまっているのは、ほかならぬ野党自身なのだ。若い世代のことを見据えて、一皮むけた政治をしてほしいものである。

前述したように、次の選挙で野党はそもそも大きな勝ちを狙っていない。

国民民主から共産党までが共有できるキャッチフレーズは「反安倍」しかなく、安倍政権にお灸を据えて一矢報いるには巧みな戦術ともいえるが、国民から大きな信頼を託されるには不十分だと思われる。

私の懸念は、国民のなかに、安倍政権への不満と同時に、いつまでも対抗政策軸を示さない野党連合への飽きや不満が高まりつつあることにある。

大阪で維新が躍進したのは、もともとは生活保護の不正受給の問題など、アンフェアなものに対する市民の怒りがエンジンになった面がある。

最近、ネットで「上級国民」なる言葉が流行して驚きを感じたが、近い将来、実質的な移民の増加によって格差が拡大し、また歪で不公正な分配が行なわれていると国民が感じた際、そうした怒りが噴出し、急進的なポピュリズム政党を生み出してしまうのではないかという懸念を抱くのである。

だからこそいまの日本には、穏やかな社会包摂を尊重しつつ持続的な改革で成長を打ち出す政党が必要だ。そして政官のみならず、民間を含む政策プラットフォームを構築し、若い世代を中心に健全な政治変革へのうねりを生み出してもらいたい。

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