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現在の年金給付水準でやり繰りできる、「コンパクトな暮らし」のすすめ

2019年07月24日 公開

河合雅司(ジャーナリスト)

河合雅司

参院選後も、老後資金2000万円問題は終わっていない。国民生活の根幹に関わる年金について、与野党は建設的な議論を進めているのだろうか。ベストセラー『未来の年表』で、日本が抱える人口減少と少子高齢化という難題を浮き彫りにした河合雅司氏は、「現在の年金給付水準でやり繰りできる暮らしの実現」について述べる。私たちは何をすべきなのか。「共助」を軸とした「コンパクトな暮らし」を提言。

※本稿は月刊誌『Voice』(2019年8月号)、河合雅司氏の「老後資金問題、『共助』の政策を」より一部抜粋・編集したものです。

 

世代間格差への失望感

老後資金問題をめぐる安倍首相の国会答弁も火消しどころか、世論を沸騰させる結果となった。

「公的年金は老後の生活設計の柱であり、将来にわたり持続可能な制度を確保している。安心できる老後生活を送れるよう、医療や介護も含めた社会保障全体のセーフティーネット機能の充実にしっかり努めていきたい」などと現行制度にまったく問題がないかのような説明を繰り返すだけだからだ。

これは国民の求めている答えとは大きく乖離している。というのも、国民の批判や疑問の多くは「老後生活を賄えるだけの十分な額を給付できない現行の年金制度が、なぜ破綻していないといえるのか」という点にあるからだ。

首相が語るとおり、現行の年金制度は、おおむね100年間で一定水準の年金給付が続けられるよう「マクロ経済スライド」と呼ばれる仕組みや、賃金や物価の伸び率で増えるはずだった年金額を毎年一定の調整率分下げる仕組みが組み込まれている。

年金額が減りすぎないように、現役世代の平均所得の50%を割り込む状況が見込まれれば制度を見直すことにもなっている。年金という「制度」の持続性という観点だけで語るならば破綻はありえない。

だが、多くの国民が求めているのは、「年金収入だけでおおむね暮らしていけるだけの給付水準の確保」である。

首相に答えてもらいたいのは、老後生活の大部分を賄えるぐらいの給付額にするための具体的な方策であり、そうなってはいない現状に対する不安と不満だ。

とりわけ若い世代には「自分たちの老後には、なけなしの年金額しかもらえない」と受け止めている人が多い。

「いまの高齢者にたくさんの年金を支払っているため、割を食うことになる」という世代間格差への失望感も広がっている。

こうした不公平さの是正に動こうとしない安倍政権を“怠慢”と見なしているのである。

安倍首相が報告書をなかったことにしておきながら「制度は安心」と説明すればするほど、怒りが募る構図になっている。

混乱に拍車をかける野党の追及にも世論の批判が向かっている。これだけ国民の関心事になっているのだから国会で取り上げるのは当然だが、恰好の政権攻撃の材料を得たといわんばかりに、論点がずれた“口撃”が少なくないためだ。

典型例が、「『年金は100年安心』と言ってきたのはウソだったのか」という批判だ。これは年金問題がクローズアップされるたびに登場するフレーズだ。

だが、「年金は百年安心」の「百年」は制度の持続可能期間を指すものであり、政府・与党が、百歳まで生きた人の生活を保障することを約束したわけではないことなど百も承知のはずだ。

強い言葉で安倍政権を批判する野党議員には、民主党政権時代に政府の要職や与党議員として活躍していた人が多い。

もし、本当に後者の意味だと信じているのなら、国会議員としてあまりに不勉強であるし、わかったうえであえてこう批判をしているならば「政治的思惑をもって焚きつけている」との批判を免れないだろう。

国民にもこの違いを理解する人は増えている。制度の長期的な安定と個人の生活保障が混同した議論は終わりにすべきである。

お粗末な展開となった今回の“騒動”ではあるが、「年金だけでは、豊かな老後を送ることはできない」と多くの国民が再認識したことは間違いがない。

自分の老後を具体的にイメージする契機としたいところだ。同時に、与野党にはどのような政策の後押しが必要なのか議論を期待したい。

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