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混迷の日韓関係、日本政府が行なった“手痛い悪手”

2019年08月05日 公開
2022年07月08日 更新

渡瀬裕哉(パシフィック・アライアンス総研所長)

輸出管理と日韓関係の悪化を関連させてはいけない

筆者は、安倍政権が同見直し措置を公表したあとに行なった対応は、国際的な世論戦を多分に不利なものにするに十分であったと思う。

日本政府は同見直し措置をアナウンスした際に、韓国側の不当な輸出管理事例について具体例を挙げて直ちに論拠をアピールしなかった。

それだけでなく、過去3年間にわたって日本側が伝えた懸念に対して韓国側が十分な回答を行なってこなかった旨を発言している。

過去3年間も韓国の行為を事実上黙認してきたにもかかわらず、なぜ現在になって同見直し措置を行なうことを突然に思い立ったのか、万人を納得させるだけの理由が十分に示されなかった。

菅官房長官と世耕経済産業大臣による同見直し措置の趣旨に関する説明も非常に問題あるものだった。

7月1日に見直し措置がアナウンスされた翌日の記者会見で、菅官房長官は徴用工問題への対抗措置ではないと述べつつも、記者からの執拗な質問によって「両国間で積み重ねてきた友好協力関係に反する韓国側の否定的な動きが相次ぎ、その上にG20までに満足する解決策が示されなかった。信頼関係が著しく損なわれたことはいわざるをえない」という発言を引き出されてしまった。

また、世耕経済産業大臣も自らのTwitterで日本政府の立場について丁寧に説明しつつも、菅官房長官と同様に「また旧朝鮮半島出身労働者問題に限らず、これまで両国間で積み重ねてきた友好協力関係に反する韓国側の否定的な動きが相次いでいることは事実。そうした背景もあり『輸出管理の土台となる国際的な信頼関係』が崩れたと言わざるを得ません」と述べている。

これらの余計な発言は本来行なうべきではない悪手であり、日本政府が輸出管理運用見直しの正当性を丁寧にアピールしても、韓国側はこれらの発言を都合よく切り取って世論戦に確実に使用してくるだろう。

その上、河野太郎外務大臣が駐日韓国大使との面談時に相手方の話を遮って「非常に無礼だ」と叱りつけた行為は最低のものだった。

もちろん、外務大臣が駐日韓国大使の日本政府を舐めた態度に対して毅然とした対応を取ることは当然のことだ。

しかし、一国の外務大臣である以上、その行為はTPOを踏まえた上での振る舞いでなければならない。これは文明国としての常識だ。

日本と韓国のあいだに歴史認識をめぐる問題がある(韓国側がつくろうとしている)ことは周知のことだが、これから輸出管理運用見直し措置に関して韓国とのあいだで重要な国際係争事案を抱えようというときに、日本の外務大臣が駐日大使を徴用工問題をめぐって公衆の面前で叱り飛ばす動画が相手国の手に渡ったデメリットは計り知れない。

河野大臣による行為のタイミングは、日本の同見直し措置の背景には歴史問題に対する怒りがあると、外国人から見て推定されうるものだった。

河野大臣は上記の駐日大使に対する説教のあとに、自分自身のブログで日本政府としての立場を一通りおさらいし、「今回の見直しは、あくまで輸出管理上の懸念に基づき行なっているものですので、あたかも旧朝鮮半島出身労働者問題に関する『対抗措置』であるかのような誤解をしないようにしていただきたいと思います」とコメントしているが、これほど敵に塩を送る真似をしたあとに国内向けに日本語でフォローしたところで後の祭りだ。

筆者は、韓国に対して歴史戦において毅然とした対応を行なうことは至極当然だと考える。はっきりいってタカ派だ。

そして、韓国が安全保障上の問題がある輸出管理を行なっている場合、ホワイト国から外すことも当然の処置だとも思う。

だからこそ安倍政権の同見直し措置の初動における世論戦の稚拙なミスには強い憤りを感じざるをえない。

安倍政権関係者は同見直し措置に関して、最近の日韓関係の悪化と関連させるようなことは絶対にしてはならなかった。

韓国に対して攻撃を仕掛けるならば一分の隙も見せず、妥協の余地を示すような助け舟も出す必要はない。相手に対する情けは無用だ。

逆に韓国側の息の根を完全に止めなければ彼らは窮鼠猫を噛む思いで抵抗し、場合によっては日本側の喉笛が噛み切られる可能性すらある。

日本政府は周到な準備の上に必ず勝てる戦いを行なうべきであり、韓国側に止めを刺すプロセスに一点の染みを加えることがあってはならないのだ。

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