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「イギリスのトランプ氏」ジョンソン首相への警戒感

2019年08月27日 公開

岡部伸(産経新聞論説委員・前ロンドン支局長)

岡部伸※写真はイメージです。

英国のジョンソン首相は、どのような状況でも期限の10月31日に欧州連合(EU)から離脱する方針で、アイルランド国境問題でバックストップ(安全策)条項の廃止ができなければ、「合意なき離脱」もやむなしと、離脱案で譲歩を迫っている。

さらに、「合意なき離脱」の場合、英国が支払う390億ポンド(約5兆円)の清算金の全額を支払う法的義務はないとの見解を示して、EU側を揺さぶった。こうしたジョンソン首相に対して、EU側は警戒感を強める。

離脱交渉で悪化した対英関係がさらに悪化するという懸念もある。

ジョンソン首相をトランプ大統領に見たてながら、何を考えているか、わからないと指摘する識者もいる。

※本稿は、岡部伸著『イギリスの失敗』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです。

 

対英関係が悪化するというEU側の懸念

「無責任な政治家が英国をEU離脱に誘導したら、後をほったらかしにしてクリケットに興じた。正直なところ、言語道断だと思った」

ドイツ大統領を務める元外相のシュタインマイヤー氏は、ジョンソン首相は気さくで機知に富むという評価があることを認めつつ、無節操でだらしないと指摘する。

ジョンソン氏が16年の国民投票の直後、伯爵の称号を持つチャールズ・スペンサー氏とクリケットのユニホーム姿で談笑する姿を目にして、ドイツの政治家たちはあまりの腹立たしさに言葉を失ったという。

「(ジョンソン氏は)全くの向こう見ずで無責任というのがわれわれの見解だ」

ドイツの緑の党の外務担当広報を務めるオミート・ヌリプール議員も警戒をあらわにする。

一方でジョンソン首相は、近隣国で批判が高まっているということは、メイ前首相より厳しい態度でEUとの交渉に臨むことへの警戒感を反映しているとみる。

EUではジョンソン首相の就任で、離脱交渉で亀裂を深めた対英関係が一段と悪化するとの懸念が強まる。

ドイツ社会民主党(SPD)広報のニルス・シュミット議員は「英国が欧州からいっそう距離を置こうとする姿勢の表れと受け止められる」と分析する。

ジョンソン首相の失態は、他にもある。

EU関係者の多くは、EUの取り組みをドイツ第三帝国になぞらえたことを許さない。

ジョンソン氏は16年の離脱キャンペーンの最中、欧州を統一しようとする試みが歴史上、何度も繰り返されてきたことに言及。

「ナポレオンやヒトラーなど、様々な人物が試みたが、悲劇的な結末を迎えてきた」としたうえで、「EUはこれを別のやり方で試しているだけだ」と述べた。

フランスの高官や外交官の間では、このような正確さを欠いた言葉遣いや冷やかし半分のユーモア表現に対し、批判が集まった。

パリ政治学院のザキ・ライディ教授は、「ジョンソン首相の人格に大きな不信感を持っている」と指摘する。

「全く予測できないという意味では、すぐ隣にトランプ米大統領がいるようなものだ。ただ、トランプ氏と違うのは、ジョンソン首相が何を考え、どんな信念を持っているのか分からないところだ」



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