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中国企業が「中国での上場を避ける」事情…敬遠される“規制色”

2019年12月27日 公開
2020年01月06日 更新

柴田聡(金融庁総合政策局総務課長兼中国カントリーディレクター)

 

母国市場に上場しない中国企業の「なぜ」

このように、二つの証券取引所が特色を出し合いながら競い合う中国株式市場だが、アリババやテンセントのように、母国である中国本土では上場せず、ニューヨークや香港で上場する有力中国企業も多い。

日本では考えにくい現象だが、世界的に優良企業の証とされる「フォーチュン500」(2018年)にランクインしている中国企業111社のうち、中国国内で上場しているのは51社(上海証取43社、深圳証取8社)にすぎず、過半は自国上場していない。

ホーム市場とはいえ、厳しい資本規制によって国際的に開放されておらず、上場審査も政府が行うなど規制色が強いローカルマーケットのままでは、優良中国企業にとって上場メリットに乏しく、敬遠されているようだ。

2018年11月、上海で開催された中国国際輸入博において、習近平国家主席は、上海証取にイノベーション企業向けの市場である「科創板」を設立すると宣言した。

中国が推進する「イノベーション型国家戦略発展」を推進するため、AI、新エネルギー自動車、バイオ創薬、ビッグデータ、次世代IT技術、クラウド・コンピューティング等、最先端技術をもつユニコーン企業の上場推進をめざしている。

企業の成長性に対する市場の評価を重視し、予想時価総額が一定額以上の場合には、従来は認められなかった赤字企業でも上場を可能とした。

また、新規上場(IPO)に当たっては、従来のような証券当局による「認可制」ではなく、日本と同様、取引所の上場審査に基づく「登録制」を中国として初めて導入するとしている。2019年7月22日に取引が開始され、現在(12月24日時点)、上場企業数は68社にまで達した。

この動きの背景には、米中貿易戦争の影響があるのではないかと考えている。

中国科学技術部の調査によれば、中国には企業価値10億ドル(約1100億円)を超える未上場企業、いわゆる「ユニコーン企業」が100社以上存在する。高い技術力をもつ自国企業を自国市場に囲い込むとともに、現在は外国に依存しているハイテク製品等の内製化を図っていく意図が感じられる。

非伝統的な産業分野では、比較的規制の少ない自由な環境下で急成長してきた民間企業も数多い。

中国の政治体制下においては、民間企業といえども中国共産党の方針には従わざるをえず、いずれ政治とビジネスの狭間でジレンマに陥るイノベーション企業も出てくるのではないかと懸念している。

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