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孤独な”疑似親子”が見た夢――映画『コンプリシティ』藤竜也インタビュー

2020年01月13日 公開

藤竜也(俳優)

藤竜也写真:吉田和本

2020年1月17日(金)より、映画『コンプリシティ/優しい共犯』(監督:近浦啓)が全国で順次公開される。外国人労働者とその周りの人物の「生きづらさ」を描いた本作は、2018年・第19回東京フィルメックスのコンペティション部門で観客賞を受賞し、公開前から話題を呼んでいる。

舞台は現在の日本。技能実習生として日本にやって来た青年チェン・リャン(ルー・ユーライ)は、劣悪な労働環境から抜け出し、リュウ・ウェイという別人になりすまして、蕎麦屋で働くことになる。店の主人で厳しくも温かくリャンと接する弘(藤竜也)。二人は親子のような関係を築いていくが、やがて警察の手が迫ってくる――。

昭和、平成、令和の三代を通じて第一線で活躍し、本作で蕎麦職人を演じた藤竜也さんに、作品の魅力や役どころ、俳優としての信念について聞いた。

※本稿は月刊誌『Voice』2020年2月号、藤竜也氏の「『孤独』が人をつなぐ」より一部抜粋・編集したものです。

聞き手:編集部(中西史也)

 

「疑似親子」が見た小さな夢

――藤さんは作中の弘と同様、中国・北京生まれですね。生まれ故郷にはどんな記憶がありますか。

【藤】 僕は、日本が戦争を始める1941年に、父の赴任先だった北京で生まれました。だから幼児のときは中国語を喋っていたみたいです。

母は乳が出なかったから、もらい乳をしていたらしい。その奥様がちょうど僕と同じぐらいの乳飲み子を連れていて、僕はその子とばかり遊んでいた。

その後、戦争が終わる前に母に連れられて、大連を経由して引き揚げ船で日本に来ました。もう少し中国にいたならば、いまごろは中国語をペラペラに話せていたんじゃないかな(笑)。

――映画に話を戻せば、弘がリャンと酒を酌み交わしながら、自らの北京時代の写真を嬉しそうに見せるシーンは、二人の思いが通じ合う印象深い場面でした。

【藤】 あのシーンは二人の幸せのピークだもんね。考えてみれば小さな幸せだけど、彼らにとってはああいう素朴な日常こそ大切に感じる。

リャンはいつ警察の手が伸びてくるかわからない不安のなか、それを隠して弘とささやかな時間を過ごしている。そこで、言うなれば「疑似親子」の二人は小さな夢を見るわけです。

――リャンは弘に、「お父さん、北京でお蕎麦屋さん、一緒にやりましょう」と語りかけていました。

【藤】 わが子同然のリャンにそんなことを言われたら、思わずグッときちゃうよね。

あと、リャンが一度、蕎麦屋から逃げ出して大きな木の下で号泣するシーンは、彼の悲しさが伝わってきました。

新緑と田園の風景が大きく映る引きのカットのなかで、青年が一人背中を丸めている。あえて人物に寄らずに広大な自然を入れることで、リャンの寂しさが際立っていたと思います。

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