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新型コロナ禍が加速させる国家間対立

2020年04月13日 公開
2022年08月02日 更新

細谷雄一(慶應義塾大学法学部教授)

新型コロナウイルスと地政学的対立の結合

すなわち、国家の力が再び強まっているのである。

これまで、グローバル化が進展する世界において、国境を越えたヒトやモノの移動が自明視されて、さらにインターネットが普及することで国家間の障壁が低くなっていることが前提とされていた。

ところがいまは、そのような潮流が逆転して、国家による障壁が再び強化されている。

そのことは、米トランプ大統領がアメリカとメキシコの国境線上に高い壁を構築しつつあることや、イギリスがEU(欧州連合)から離脱することなどに、端的に示されている。

たしかに国家間の対立は、近代以降の国際社会では繰り返し見られてきたものである。それは国際政治の基本的な構造でもあった。

だが、グローバル化の新しいパターンの下で、新しい種類の対立が見られるようになったのだ。

国際政治経済学が専門の田所昌幸慶應義塾大学教授は、それゆえに、『新しい地政学』に寄せた「武器としての経済力とその限界」と題する章において、次のような重要な指摘を行なっている。

すなわち、「冷戦後のグローバルな経済関係は、国家の領域的支配を溶解させたのではなく、国家間の競争関係において、軍事的安全保障に並ぶ一つの重要な次元が加わったと見ることができよう」。

グローバル化が国家間の競争をなくしたり、国境障壁を除去したりするという楽観的な憶測は、いまや大きく後退した。

むしろグローバル化によって、国家間の競争が新しい次元に進んだのである。

すなわち、経済関係が戦略的な意図によって翻弄され、さらにはナショナリズムやポピュリズムがそのような競争や対立をより熾烈なものとしているのだ。

このようにグローバル化により国家間の競争が新しい要素を内包するようになったことに加えて、新型コロナウイルスの感染拡大が国際関係に大きな影響を及ぼしている。

本来であれば、国際協力によって流行の拡大を抑制するべきなのだが、それがポピュリズム政治や排外主義と融合することで、より熾烈な国家間対立を生み出そうとしているのだ。

いわば、新型コロナウイルスと地政学的対立が結合しつつあるのだ。

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