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「街から人が消えた…」バルセロナで「ロックダウン」を強いられたジャーナリスト

2020年05月13日 公開
2020年07月09日 更新

宮下洋一(ジャーナリスト)

人も笑いも消えた街

私のアパートは、バルセロナ市内でも、フィリピンやパキスタン出身の移民が集中する地区として知られている。他にも、米民泊サイト「エアビーアンドビー」の物件を利用する若者たちの出入りが激しい。

夜はバルやレストランが活気づき、スケートボーダーの溜まり場としても人気がある。午前3時くらいまで、365日間、とにかくうるさいのだ。

ところが、外出禁止令直後の夜から、音が消えた。話し声も車やバイクの音も、何も聞こえてこなかった。それはむしろ不気味だった。

朝になっても、スーパーの荷台トラックの音と、プロパンガスを売る男性のかけ声しか聞こえなかった。私の脳は、日毎に時差ボケ状態になっていった。

地下鉄も車も飛行機も乗らない。家からほとんど出ない生活になった。朝はゆっくり起きて、現地のニュース番組を見ながら情報収集。昼食はとらず、読書と執筆の時間を午後に充てる。早めに夕食をとり、長い夜を楽しむ。

外に出られない分、読んで書いてを繰り返し、寝る前に日本の情報番組をネットで視聴する。いままでになかった贅沢な時間だ。就寝は午前4時。「ぐうたら生活」を送っていた。

外の世界では、スーパー、薬局、パン屋、たばこ屋、キオスクなどを除き、ほぼすべてが休業になった。「お願い」とか「要請ベース」という話ではない。原則、すべて休業だ。

欧州で最も人口密度の高いランブラ通りや、予約なしでは入場できないサグラダ・ファミリア(聖家族教会)からも、即、人が消えた。笑い声もなければ、若者たちの接吻もない街に変わった。

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