Voice » 政治・外交 » 「誰のための自粛か」在欧ジャーナリストが指摘する、欧米と日本の考え方の違い

「誰のための自粛か」在欧ジャーナリストが指摘する、欧米と日本の考え方の違い

2020年05月15日 公開
2020年07月09日 更新

宮下洋一(ジャーナリスト)

誰のための自粛か

非常事態宣言から、4月14日で1カ月が経った。前日から、製造や建設業の仕事が再開した。

私も、3日ぶりにスーパーに出かけてみる。全体的に外出者の数が増えている。春の日差しを浴びようと、ルールを破り散歩をしている人の姿も多い。その気持ちもよくわかる。

スーパーの店員に自宅待機は適用されない。医療従事者のように称賛されるべきではないか、との声もある。

肉屋の女性は、近寄って目当ての肉を指差す私に、「もっと遠くから話しかけてちょうだい!」と苛立った。自宅待機する者よりも、自宅待機できない者のストレスのほうが遥かに大きいのかもしれない。

就寝前、日本の情報番組を見ると、医師のきめ細かな分析や政治家の入念な検討は、欧米のどの国よりも優れていると思った。

だが、アクションに至るまでの欧米との時間差が、あまりにも大きい。番組を見ながら、毎日、繰り返される同じ議論に虚しくなった。

欧州は欧州で、自国の政府批判が後を絶たない。スペインでは、政府の都市封鎖が遅かったという声がある。だが私は、スペインの対応は早かったと思っている。

残念なのは、1日1000人近い死者を出す欧州のニュースを把握しながらも、実行に移れない(移らない)日本という国の体制だった。

イタリアもフランスもイギリスも、欧州はとにかく対応が早かった。

人命を守るために都市封鎖をし、データ分析のためにPCR検査を増やし、医療崩壊を防ぐために医療用具を迅速に輸入し、現金給付金の支給など、毎日、ニュースを追っている私さえ気づかぬ間に決まっていた。

日本はどうだったか。すべてにおいて、議論だけが目的のように見えてしまう。都市封鎖の権限があるのかないのか、PCR検査はどこどこの管轄であってできるとかできないとか、マスクが中国にあって日本にないとか、現金にするのかマスク二枚にするのかとか……。

人の顔色を窺ってばかりで何も決まらない。世界一細かな情報と豆知識は、どの国よりも行き届いているように思えるが、優先順位を誤れば大災難を起こしてしまいそうだ。

なぜこれほど違うのか。それは、日本がイタリアやスペインのように、大量の死者や棺の山を見ていないから「焦りがない」としか、私には思えない。

であるならば、このパンデミックの最大の懸念とされる「医療崩壊」が、日本では起きない証拠があるということのように、裏を返せば見えなくもない。

もしその仮説に基づくのであれば、都市封鎖の必要もないだろうし、経済活動の自粛も「8割減」もやめたほうがいいのだろう。欧米の外出禁止令を真似る必要など、一切ないのではないか。

だが、1つだけ、日本人に訊いてみたいことがある。今世紀最大のウイルスの下で、あなたは周囲が自粛するからそうするのか、それとも、あなた自身が自粛すべきだと思うからそうするのか。

欧米人と日本人の考え方の最大の違いは、そこにあらわれているように思う。

Voice 購入

2024年5月号

Voice 2024年5月号

発売日:2024年04月06日
価格(税込):880円

関連記事

編集部のおすすめ

移民の制限を訴えたら「極右」なのか?欧州で台頭する「自国ファースト」の最前線

宮下洋一(ジャーナリスト)

「隠れ移民大国」日本はどうすべきか 欧州移民政策の失敗から見えたこと

宮下洋一(ジャーナリスト)

日本人が知らない安楽死の真実

宮下洋一(ジャーナリスト)
×