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新型コロナで傷ついた日本経済…回復に必要なのは「検査の拡充」

2020年07月02日 公開

小黒一正(法政大学経済学部教授)

 

感染症学と経済学の融合を

まず、感染症対策の基本は「検査」と「隔離」であり、感染拡大の抑制のため、その徹底が必要であることはいうまでもない。

とくに、新型コロナウイルスはその感染力の問題もあるが、潜伏期間が長く無症状感染者も多いために、検査を適切に行なうことが対策のうえでも非常に重要であると指摘されてきた。

わが国では、いわゆるクラスター対策を主な戦略としてこれまで多くの成果を上げてきたが、検査対象を絞り、その接触者の追跡に主眼が置かれたために、検査数は諸外国に比べて極めて低いものとなっている。

東京都の検査でも、クラスター対策とは別ルートの感染も多数発生し、感染経路を追えない市中感染や院内感染が急激に一時、増加した。この意味でも検査の拡充が求められている。

なお、検査の拡充にあたっては、PCR検査(新規感染。抗原検査を含む)と抗体検査(既感染)の2つの検査を併用することが極めて大切である。

PCR検査は偽陰性となる一定の確率が存在するため、抗体検査により、PCR検査が見落としていた感染の広がりを把握することができる。

とくに、外出制限や自粛を含めた非薬物的介入を解除するための判断基準の1つは、1人の感染者が何人に感染させるかを示す「実効再生産数(R)」を1未満にすることだが、そもそも検査が追い付かず、わが国はいまも本当の感染者数の推移を把握できていない。

PCR検査や抗原検査の拡充は、リアルタイムで「真のR」をモニターするために必須である。また、抗体検査による感染率の推計によって、効果的な介入の選択や介入効果を検証することが可能となる。

 

命も経済も守る対コロナ戦略

一方で、すでに外出制限や営業自粛による資金繰り悪化やコロナ関連倒産が出始めているが、そもそも、感染していない人びとのほうが多いはずだ。

にもかかわらず、多くの人びとに外出制限や自粛が要請された理由は何か。それは、感染の有無に関する「情報の非対称性」が存在するからだ。

また、われわれも自分自身の感染の有無を判断できないケースも多い。だから、外出制限や自粛により、他人との接触を減少させようとする。

しかし、通常の経済活動を再開するとき、われわれが互いの感染の有無について判別ができたら、状況は劇的に変わってくる。感染症対策と経済学の視点を融合させず、「検査」をたんに感染症対策の一環として、感染の有無のみに利用するのは視野が狭い。

検査で陽性反応が出た者の「隔離」は当然だが、経済政策の視点も取り込み、継続的な「陰性者」を徐々に自由な経済活動に戻す「出口戦略」の立案やその環境整備が極めて重要だ。

もっとも、検査拡大に伴う偽陽性の問題で医療崩壊を招くことがあってはいけない。このため、緊急提言では「擬陽性は再度検査」等と記載している。

詳細はエクセル・ファイル(https://bit.ly/2WSPeix)で確認してもらいたいが、たとえば「感染率=1%かつ特異度99.9%」の場合、連続二回検査陽性を「陽性」と定義すると、東京都の人口(1395万人)でも偽陽性は14人になる。

かりに、同じ条件で、連続3回検査陽性を「陽性」と定義するならば、東京都の人口(1395)でも偽陽性は0人になり、陽性判定は100%になる。

また、偽陰性の問題もある。この問題に対処するため、連続数回(例:2回)検査を行なって継続的(例:2回連続)に陰性のときに「陰性」とし、それ以外は「陽性」とする対応も重要だが、情報の非対称性を解消し、われわれがお互いに検査結果(PCR検査や抗原検査)を容易に確認できる環境整備も重要で、たとえば、PCR等検査陰性証明書の発行も考えられる。

マサチューセッツ工科大学のアシモグル教授らの最近の論文も似た問題意識をもっているが、外出制限や自粛といった一律の政策ではなく、「命」も「経済」も守るものと発想を転換することで、ウイルスを封じ込めながら、感染リスクや年齢といったグループの特性に応じて、通常の経済活動を取り戻すための戦略を早急に講じる必要がある。

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