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トランプはファシストなのか、米国の分断を生んだ“本当の要因”

2020年07月14日 公開
2022年07月08日 更新

村田晃嗣(同志社大学法学部教授)

トランプ版「アメリカ・ファースト」の温床

21世紀のリンドバーグよろしくトランプ大統領が登場するには、「切り札」が必要であった。

まずは、孤立主義である。周知のように、第一次世界大戦後のアメリカは孤立主義に陥った。二度と戦争はご免だという素朴な平和主義(パシフィズム)も蔓延した。平和主義という言葉そのものが、この時期に誕生したという。

ウッドロー・ウィルソン大統領は世論と議会の説得に失敗し、自らが提唱した国際連盟にアメリカを参加させることすらできなかった。その結果、ナチスの台頭を許し、第二次世界大戦が勃発した。

過去の反省に立って、第二次大戦後のアメリカは世界のリーダーとしての役割を果たした。

しかし、米ソ冷戦の誤読から、アメリカはベトナム戦争にのめり込んで痛手を蒙った。アメリカが「ベトナム症候群」から回復したのは、湾岸戦争での短期圧勝による。

やがてソ連が崩壊し、唯一の超大国となったアメリカは、2001年9月11日の同時多発テロを契機に「テロとの戦い」を拡大し、アフガニスタンとイラクで大規模かつ長期の戦争を経験した。

このように、20世紀以降のアメリカ史は孤立主義と対外介入を繰り返してきた。

「テロとの戦い」への疲弊が募ったところに、2008年のリーマン・ショックが起こり、アメリカは経済的にも大打撃を受けた。その間に、中国は急速に力を蓄え、アメリカに対抗し凌駕する野心を露わにした。

つまり、周期的に現れる孤立主義に、国力の衰退という悲観論が重なり、トランプ版「アメリカ・ファースト」の温床となったのである。そこに、社会の急速な変化と分断が連動した。

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