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「宗教は自分を納得させるための物語」 カミュの『ペスト』に見る、宗教と疫病の意外な関係



2020年07月15日 公開

森本あんり(国際基督教大学教授)

森本あんり(国際基督教大学教授)写真:遠藤宏

人類は危機に直面するたび、宗教に精神的拠り所を求めてきた。このたびの新型コロナ禍は宗教にどのような影響を及ぼすのか。国際基督教大学教授で『反知性主義』などの著書がある森本あんり氏が、アルベール・カミュの小説『ペスト』を基に、パンデミックと宗教の関係を読み解く。

※本稿は月刊誌『Voice』2020年8月号、森本あんり氏の「民主社会の正統性が問われている」より一部抜粋・編集したものです。

聞き手:Voice編集部(中西史也)

 

信徒の多くは信仰で感染を防げるとは考えない

――新型コロナウイルス蔓延の影響で世界では礼拝や巡礼が見送られる一方、韓国のキリスト教系団体でクラスター(集団感染)が発生するなど、感染拡大の温床となるケースもありました。今回のコロナ禍と宗教との関係性をどう見ますか。

【森本】まず宗教を生活感覚から説明すると、二つの側面があるように思います。

一つは、思想的な世界観の形成です。いわば、宗教が身の回りの世界を説明する原理になること。もう一つは身体的な表現行動で、これは信者の日常生活の習慣を形成します。

具体的には礼拝などに集まることですが、素朴な体感としては宗教的な意味よりも「信仰を同じくする人びとに会いに行く」という社会的な機能のほうが強い。

要するに、クラブ活動のようなものでしょうか。仲間と一緒に話したり、歌ったり、祈ったりしたい。そこに今回のコロナ禍が起きたわけで、そうした活動ができなくなったことが信徒にとっていちばん辛いところでしょう。

一部のイスラム地域や韓国では、信じていれば神が護ってくれるから感染しない、と主張する指導者もいました。しかしそれは、ごく限定的な逸脱です。

大多数の信徒は、信仰で感染を防げるとは考えないし、感染拡大阻止のために実際的な行動指針を出した医者の信徒グループもいます。WHO(世界保健機関)も宗教集団の存在の大きさを理解しているので、専門家チームに宗教指導者を入れて諸宗教へのガイドラインを提示しました。

――有史以来、人類は感染症のパンデミック(世界的大流行)に向き合ってきましたね。

【森本】アルベール・カミュの小説『ペスト』には、ペストの蔓延に直面する人びとの姿が描かれています。カミュはペストの流行そのものを経験して書いたわけではありませんが、その描写があまりにいまの状況とそっくりで、私も今回あらためて読んで驚きました。

ロックダウン(都市封鎖)で人びとの暮らしがどう変わるか、商取引や旅行の計画など、日常生活のすべてがなぎ倒される様子がリアリティを帯びて描かれている。

『ペスト』が与えてくれる示唆はそれだけではありません。疫病は、一方で地位や階級にかかわらず人びとを襲う平等さをもつものの、他方で貧しい家庭は食べるのにも窮し、裕福な者は何一つ不自由しない、という平時の不平等を顕在化させてしまう。

現在われわれは「オンライン」化の味気なさを嘆きますが、当時はそれが「電報」化だったし、新型コロナで自宅に缶詰になることを日本では「巣ごもり」と言いますが、カミュは「自宅への流刑」と表現している。

他にも、混乱に乗じて金儲けをたくらむ男が現れたり、やがてゆっくりと感染症が収束に向かったりする様などは、現下の状況と酷似していて震撼させられます。

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『ペスト』が示す、「手当をする」意義 >



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