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「宗教は科学の代わりにはならない」 コロナ禍で変わる信仰の役割



2020年07月17日 公開

森本あんり(国際基督教大学教授)

森本あんり(国際基督教大学教授)写真:遠藤宏

人類は危機に直面するたび、宗教に精神的拠り所を求めてきた。このたびの新型コロナ禍は宗教にどのような影響を及ぼすのか。国際基督教大学教授で『反知性主義』などの著書がある森本あんり氏は「宗教は科学の代わりにならないし、その逆も然りです」と述べる。パンデミックにおける信仰の役割について聞いた。

※本稿は月刊誌『Voice』2020年8月号、森本あんり氏の「民主社会の正統性が問われている」より一部抜粋・編集したものです。

聞き手:Voice編集部(中西史也)

 

パンデミックで宗教は衰退するか、復興するか

――コロナ禍によって宗教という一つの大きな権威が揺らぐことで、世界にどのような影響をもたらすでしょうか。

【森本】そんな予言は私にはできませんが、大きく分けて二つの見方があります。

一つは衰退論です。宗教には礼拝などの日常的な行動パターンが付き物で、これは明らかに大きなダメージを受けています。営業自粛中の飲食店と同じで、とにかく「お客さん」が来ない。教会の財政は献金で成り立っていますから、経済的にも大打撃です。

もちろん、いまではオンラインで礼拝や献金ができます。それでも献金額は激減し、教会によっては閉鎖を余儀なくされるでしょう。

もともとヨーロッパでは、礼拝に来るのはお年寄りと移民が多かったのですが、どちらもコロナの影響で大幅に減ってしまった。ウェブ配信の礼拝も行なわれていますが、急場しのぎで限界があります。信者からすれば画面を観るだけですからいかにも受動的で、自発的な行為がないからです。

これは大学のヴィデオ講義と似ています。そして習慣である以上、いったん途切れた礼拝が、のちに元に戻るかどうかは未知数です。

宗教指導者の権威という面では、従来の教義や戒律と矛盾する指針を出さざるをえなかったことをどう受け止めるかです。

カトリックならミサに出席することは義務だったのに、来なくていいと言う。ユダヤ教では、少なくとも10人が集まらないと公的な礼拝は行なえないことになっていた。

スリランカでは、火葬を嫌うイスラム教徒にも政府がそれを命じて、宗教と政治の緊張が高まった。信者の大切な義務であるメッカへの巡礼ですら、延期が薦められています。

もう一つの見方は、衰退論とは正反対の信仰復興論です。歴史を生きてきた宗教にとって、じつはこうした危機は過去に何度も経験済みで、そのたびに新しい適応がなされて再興しました。

絶望の淵に置かれると、人は光明を求めます。「塹壕(ざんごう)のなかに無神論者はいない」と言われるとおりです。

グーグルの検索語ランキングでは“prayer”(祈り)という言葉がうなぎ登りだと言いますし、アメリカ人の4人に1人は「困難な状況にあるいまこそ信仰心が強くなった」と答えています。

――カトリック教会の頂点に立つローマ教皇は、新型コロナへの対応について、精力的にメッセージを発信していました。

【森本】以前は高位聖職者や警護に囲まれて遠い存在だった教皇が、いまはヴァチカンの広場からぽつんと一人で信者に直接語っている。その姿に、かえって親近感が増したという声もあります。

もともとローマ帝国時代にキリスト教が広まったのは、国教化以前の迫害されていた時代に、「人びとと苦難をともにする救い主」が認知されたからでした。まさしく危機の時代に「手当をする」宗教です。

その姿は、声高に真理を語るような体制派の組織宗教や、大きな聖堂・社殿・寺院を誇る成功者の宗教ではない。

昨年12月にアフガニスタンで亡くなったクリスチャンで医師の中村哲さんのように、胸中深くに蓄えた信念から腹を括って自分がなすべきと信ずる働きをする人、つまり「手当」を地道に続ける身近な人の集まりになるのかもしれません。

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