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「聖人君子」ウッドロー・ウィルソンが世界に働いた悪事とは?

2020年11月18日 公開
2022年12月15日 更新

倉山満(憲政史研究家)

 

マッカーサーでも言わなかったこと

ドイツは政府の正統性を問われて、和戦は皇帝の大権だけれども、政府は選挙で選ばれた代表機関で、これまでも首相は議会に責任を持っていることは法律で規定されていると説明したうえで、「新政府第一の行為は憲法を改正し、和戦の決に国民代表機関の協賛を要することとなす法案を、議会に提出することにありたり」と回答しています(前掲『日本外交史 12 パリ講和会議』19頁)。

ウィルソンの要求は、「そんな生ぬるいことで信用できるか!」なのです。後のダグラス・マッカーサーでも占領前にそんなことは言わなかったのですが。

ドイツの皇帝に退位を要求するというのは、後を継ぐなという含みです。しかも独裁政府とは交渉しないと言い切っています。ならば国体を変更するしかありません。ただ、抜け道はあります。

ドイツ皇帝は、25の国の王様が集まったドイツという国の皇帝です。ドイツ帝国の成立以来、3代の皇帝はいずれもプロシア国王が皇帝を兼ねています。

ヴィルヘルム2世は、皇帝を辞めても国王で残れる可能性があります。第2次世界大戦で敗色濃厚となった日本が国体護持を必死で考えたように、この時のドイツ人もその可能性を最後まで模索するのです。

結果的には、ドイツには皇帝も、25の王冠も無くなりました。ウィルソンは最初からこれを狙っているのです。講和の18カ条と皇帝退位を突き付けるということは、その後もあるぞという意味です。

たとえば第2次世界大戦でアメリカが日本に突き付けたハル・ノートを、文言だけ読んで「こんなの全然吞めるではないか」という解釈をしてはいけないのと同じです。

これまでの流れの中で、条件上乗せの連打をしていってトドメでここまで言っているので、25 個の王冠まで引っくり返す意味になるのです。

 

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